「しまった。忘れた。」


ついていない。

跡部は未だに降り止む気配がない雨を恨めしそうに見つめながら呟いた。






















































梅雨での出来事































































今日は朝からついていなかった。

何故か、目覚まし時計が壊れていて寝坊した。

学校にはギリギリ間に合ったが、肝心の宿題を忘れてしまった。
















(忘れ物なんかしない完璧な俺様が・・・・。)












跡部は、心の中で舌打ちをした。


同じ教室に、レギュラー陣がいなくて良かった。

いたらどんなに馬鹿にされる事か・・・・。

その光景が簡単に想像できてしまう。



こんなにもついていないという事は、自分は神にとって何か気に食わない事をしたのだろうか?













(いや、俺は神なんか信じていない。全く信じていないぞ。)














それにしても、この雨は一体いつまで降っているつもりなのだろうか?


休み時間は、ファンクラブの連中からは逃げなければならなかったし

跡部は兎に角早く帰って休みたかった。

疲れを癒したい・・・・。

中学の時も、こんな感じだった。

休みになれば、女達がやってくる。

俺を追い掛けて何が楽しいんだ。

金が目的か?それとも、顔が良いからか??

隣にいるだけで周りの女達に自慢になるからか??


好い加減にして欲しい。

上辺だけではなくて、本当の自分を見てくれる様な女は現れてくれないのだろうか。

そんな女が欲しい。


























「・・・・・いるわけ無いか。」

自嘲気味に呟く。

運命的な出会い。

本当に夢中になれる様な・・・・そんな恋をしたい。

しかし、半ば諦めている。そんな相手に出会える運は自分は持っていない・・・・と。











「今日は、本当に何もかもついてねぇよ。」

「何言ってるんですか。」

「!!!!?」


壁に寄り掛かり俯いていた跡部の背後から女の声がした。

振り向くと、今まで見た事の無い様な女だった。

もしかして・・・・新人のファンクラブの女か・・?


だとしたら、用心しなくてはならない。跡部は、女がどう出てくるのか待った。






































「はい。」




注意深く見つめている跡部に女は何かを差し出した。


差し出されたモノは・・・・・。

























「傘?」




思わず声を出してしまった。











傘。

間違いない。俺が今必要としている傘だ。




「貸してあげますよ。」



女は、ニッコリと笑顔で跡部に傘を貸すと言い出す。

「・・・・・お前、何が狙いだ?俺と付き合いたいのか?」

跡部は、笑顔でいる女を軽く睨み付ける。

「何言ってるんですか。傘無くて困ってそうだったから貸そうと思っただけです。

見返りがほしいとか、貴方と付き合いたいとか思っていませんよ。私、貴方の事知らないし。」

流石に跡部の発言を快く思わなかったのか、ムッとした表情になった。



(なんだと・・・?俺の事をしらないだと!?)








煩いのは煩いので嫌だが、自分の事を知らないのも嫌だと思う男。

それが跡部景吾である。

「俺の事知らない・・・・と言ったな。俺の名前は跡部景吾だ。」

「知りません。」

一切の間を開けずに、平然と女は即答。

跡部は口の端を引き攣らせながら女を見る。










































「興味ないですしね。」


















驚いている跡部に対し興味ないと言った。

こんな女は初めてだ。

自分の事を知って貰いたい。

出来る事なら、自分の事を見て、愛して・・・・側にいて貰いたい。
















(何だ・・・?この感情は。今までに味わった事のない・・・・。)





































コノオンナガホシイ。


































跡部にそんな感情が芽生えた。

他には何も要らない。何も要らないから、この女が欲しい。

もしも女が手にはいるのならば、一生に一度だけ、神とやらを信じてやる。

「じゃ、私はこれで・・・。」

女は、跡部に傘を手渡すとさっさと帰ろうとした・・・・・。
























が、





「ちょっと待て。」

跡部が急に女を呼び止めた。

「お前、名前は?」

先ずは名前を知らなければ・・・。

跡部はそう思い、尋ねた。

 。」

その一言だけをいうと、もう話す事はないかと言う様に校門の方へと歩き出してしまった。






「ククッ・・・・・。」

ついていないなんて間違いだ。今日はついている。

なんたって、素晴らしい出会いをしたのだから。

この恋はまだ始まったばかり。

絶対に諦めたりはしない。


か・・・・。お前はじきに俺様のもんになるんだ・・・。」

そう呟いている跡部の表情は何処か自信に満ちていた。









そんな跡部の頭上では、今までの天気とは打って変わり

彼を応援するかの様に青空が広がっていた・・・・・。