どういう事
なんだ
「どういう事かしら。」
俺の恋人、。
彼女は何故か、怒っていた。
俺は、何の事かさっぱり分からない。
第一・・・・・を怒らせる様な事を、していない。
なら、どうしては怒っているんだ?
しかも、俺に対して・・・・・。
「・・・・・俺が・・・何かしたか?」
「したわよ。馬鹿。」
「馬鹿って・・・・あのなぁ・・・。」
「今朝、変な事が度々起こったのよ。」
は、俺の話しなんか二の次で、勝手に話し始めた。
「・・・・・・何だと?」
「だから、襲って来たのよ。貴方のくだらないファン?の方達が。」
が持っているのは、“果たし状”と墨で書かれた紙。
達筆だが・・・・・・・・・・・・・・俺にとっては、大迷惑だ。
その紙の、存在が。
「これで、決定ね。別れましょう。」
「嫌だ。」
「以前・・・・・言ったわよね。忘れる程、貴方の頭は悪い?」
「・・・・・そんなもん、却下だ。」
以前、に言われた。
“躾をしなければ、別れる”
と。
俺は、忘れていない。
忘れていないからこそ、躾をしてきた。
絶対に、変な気を起こすな・・・・・と。
勿論、の強さを知っている奴は、素直に言う事を聞いた。
他の奴等は、俺が脅して何とか大人しくさせた。
(・・・・・・・それなのに・・・。)
これは一体、何なんだ?
アイツ等は、そんなに俺を悲しませたいのか!?
「貴方、新入生を躾なかったでしょう。」
「・・・・・・・・・・新入生だと?」
新入生。
その名の通り、新しく入学してきた生徒。
忘れていた。
俺とした事が、安心しきって新入生の存在を忘れていた。
「じゃあ、失礼するわね。これで縁が切れて、清々するわ。」
「ま、待ってくれ!!」
「・・・・・・・何かしら。」
冷たい、瞳だった。
俺が、初めに向けられた時と同じ。
無関心で、どうでも良い様な・・・・・もう二度と、向けられたくないと思った瞳。
そんな瞳で、俺を見るなよ・・・・・。
頼むから、止めてくれ・・・・。
「俺は・・・お前がいないと、駄目なんだ・・・・。」
「関係ないわね。私がいなくても、大丈夫よ。死ぬ訳じゃないでしょう?」
「・・・・・・・死ぬ。絶対に、死ぬさ。生きていても、死んでる様なもんだ。」
「大袈裟ね。」
は、俺の手を振り払い、教室の出入口へと向かってしまう。
どうすれば、良いんだ。
は、俺と別れたかったのだろうか。
ずっとずっと、そう思いながら、俺と付き合っていたのか?
否、それだったら・・・・・全く相手にしないはず。
「・・・・俺は、お前がいないと・・お前がいないと・・・・・死ぬからな!!」
“だから、殺したくなければ俺の側にいろ!!!”
本当に、自分勝手過ぎる。
跡部景吾は、自分勝手。
私の気持ちは、どうするつもりなのだろう。
(厄介な人間に付き纏われると・・・・・こうなるのかしらね。)
災難としか、言えない。
この学園に入学して、跡部景吾と同い年で、同じクラスで・・・・・全てが、運が悪かった・・・・と、運のせいにしてしまいたい。
「・・・・・・・で、何か用があって此処にいるのかしら。」
「えぇ、先輩。あるからいるんです。」
「そう。」
考えるのを止めた私の目の前には、下級生の女子生徒達が立っていた。
毎度毎度・・・・・煩い女達ね。
群がってばかり。
群がらないと、何も出来ないのかしら。
たまには、一人で来る人間を見てみたいわ。
「ちょっと、来てもらえませんか?」
「断るわ。」
行く必要は、ない。
大体、私はもう・・・・・。
“・・・・俺は、お前がいないと・・お前がいないと・・・・・死ぬからな!!”
何故か、彼の言葉が頭から離れてくれない。
跡部景吾なんて、どうでも良い存在。
「もしかして、私達が怖いんですか?先輩。」
「馬鹿にするんじゃ・・・・ないわよ。誰が、怖いと言ったかしら。貴女達なんて、怖くないわ。」
今、私が怖いと思うのは・・・・・。
「いっ・・・・っ・・・!!!」
「本当に・・・・いい加減、私も本気になるわよ。“仏の顔も三度”と言うでしょう?」
私は、最後の一人の首を絞める。
他の生徒は、全員地面に倒れ込んでいる。
「跡部景吾は、死ぬんですって。」
首を絞める力を少し緩め、私は呟く。
「私が離れたら、死ぬそうよ。」
そう・・・・・私が、本当に怖いと感じているのは・・・。
「・・・・貴女達は、彼を殺したいのかしら。」
彼の、異常なまでの執着心。
どうでも良いモノには、執着しない。
けれど、どうでも良くない時・・・・その執着心が異常なまでに膨れ上がる。
どんな手段を取ろうが、確実に離さない。
「以前みたいに、水やら紐やら黒板消しやら机荒らしやら・・・・やっても構わないけれど・・・今日みたいになりたくなければ、止めなさい。」
私は・・・・・初めて、恐怖を覚えた気がする。
「別れないであげるわよ。」
「・・・・・。」
屋上で独り落ち込んでいた俺の所に、がやってきた。
その直後、が言った言葉に俺は驚いた。
「新入生は、締め上げて黙らせて来たから、もう良いわよ。」
「お、俺と・・・・別れない?」
「そうよ。」
「ずっと・・・・側にいてくれるのか?」
「構わないわよ。」
「じゃ、じゃあ・・・・・俺の・・・・側にいて支えてくれるのか?」
「しつこいわね・・・・何度も、言わせないで。」
「・・・・・!!!!」
力強く、抱き締めた。
を。
もう二度と、こんな事出来ないと思っていた。
俺は、本当に死んでしまいたいと思ったから・・・・・。
「貴方が、初めてだから離れないでいてあげるのよ。」
「初めて?」
「恐怖感。」
「あーん?」
が言いたい事が、良く理解できない。
恐怖感?
一体、俺の何が恐怖なんだよ。
寧ろ、の方が恐怖だ。
彼女の方が、怖い。
「貴方の執着心は、恐怖そのものよ。」
「・・・・・・・・・・何だそれ。」
「“執着心が怖い”ただ、それだけよ。」
は、それ以上は何も言わなかった。
俺には、秘密なのか?
秘密があるのは、面白くない。
俺は、秘密が嫌いだ。
それがなら、尚更嫌だ。
教えてくれないだろうか・・・・俺に・・・・。
(全く・・・・・俺も弱くなったな。)
こいつが絡むと、どうも可笑しい。
俺は、振り回されてばかりの様な気がする。
何をやっても、格好が付かない。
「災難ね。」
「あ?」
「自分で、災いを喚んだのかしらね。」
「悪い、意味が分からないんだが・・・・・。」
「一生、分からなくても構わないわよ。」
は、笑ってくれた。
あんな、優しい笑顔を見たのは初めてだった。
出会った時だって、無理矢理付き合わせた時だって、デートしている時だって・・・・・何時でも、は笑わなかった。
もしかして、俺がに変化を齎したのか・・・・・?
「それはそれで・・・・・良いかな。」
「何がよ。」
「秘密だ。これは、教えてやらねぇ。」
「そう。」
お互いに刺激し合い、変化をしていける。
これは、とても良い事に違いない。
案外、俺達は死んでも生まれ変わっても、離れられない存在かもな。
・・・・・・・・大袈裟かと思うかも知れないが、俺は至って本気だ。
「もう、離さない。」
「御自由に。私は、もう疲れたわ。」
は、俺に寄り掛かる。
そんな彼女を、俺は包み込む様に抱き締めた。
こんな時間を、これからも二人で過ごせる様にと願って・・・・・。