『悪いな。』
ユメノナカ、カナシイコトバガキコエテキタ、、、、、、。
何もシラナイ貴方が、私の何がワカルというのか
(嫌な夢だ。否、実際にあった出来事だけど・・・・・・。)
朝、最悪な目覚め。
一体何時になったら、あの光景が夢に出てこなくなるのか。
私としては、かなり鬱陶しい。
そして、安眠妨害以外のなんでもない。
あの男なら、大丈夫だと思ったのが間違いだった。
所詮は、操り人形。
所詮は、親の言いなり。
結局・・・・私の買い被りだったという事で、見る目が無かったと、自分を責めるしかない。
(フン・・・・・今度こそは、と期待していたのに。次に会った時には、後悔させてやる。)
そう心に誓った私は、今まで貰った品の数々を処分する事に決めた。
もう過去の人間になった、男の写真を破りながら・・・・・。
本気で好きになった女がいた。
だが、現実は余りに残酷で・・・・・俺は、彼女に別れを告げるしかなかった。
悪いと思ったし、きっと泣かれると思った・・・・・・が、彼女は違った。
“仕方無いでしょう?貴方は、その路を選んだのだから。私と貴方は、別々の路を歩むって事が結論で良いでしょう。”と、笑顔を俺に向けてきた。
俺の予想していた反応とは、真逆だったんだ。
悲しくないのか、泣かないのか・・・・・・と聞いたら、“そんなみっともない態度は取らないし、泣いてもどうにもならないのだから、泣く必要が無いと思わない?”と、またしても笑顔で言われた。
確かに、泣き喚いたって、何も変わらないさ。
だが、余りに反応が無いと、変な気分になる。
(・・・・・令嬢なら、問題ねぇんだけどな・・・はぁ・・・・。)
今の俺では、親に立ち向かう程の力がない。
力があれば、親に反抗し、彼女を選んだに違いない。
諦めるしかない・・・・諦めるしかないから、頑張って忘れるしかない。
俺が、この路を選択してしまったんだから、そうするしかないんだ。
「畜生・・・・・こんなん有りかよ・・・・。」
彼女の全てが、忘れられそうにない。
どうやって、俺に忘れろっていうんだよ。
本当に愛した奴を、どうやって忘れろと?
忘れられるわけがないだろう?
「・・・・・会いたい。」
別れを告げてから、繋がらなくなってしまった携帯。
番号もアドレスも、全て変えてしまったのだろう・・・・。
これが彼女の“意思表示”。
自宅も学校も、電話さえも分からない。
出来ることなら、もう一度。
一度で良いから、会いたかった。
婚約なんか・・・・・したくない。
政略結婚なんか、しなくても大丈夫じゃないのか?
何処まで、俺の自由を奪えば良いんだよ。
相手くらい自由に決めたい。
そう思いながらも、今の俺には無理だった。
今は離れてしまった想い人の写真を見ながら、俺は、明日に備えて夢の中へと入っていった。
せめて、夢の中だけでもと幸せな時間を過ごしたいと願いながら・・・・・。
「行くわ。一度行けば、気が済むでしょう?」
「・・・・・良いのか?お前、こういうのは嫌いだと言っていなかったか?」
「確かに下らないし、どうでも良いわ。でも、行かなければ行かないで、何時までも煩いじゃないの。」
私がそう言うと、父は“それは、まぁ・・・・。”と言った。
今まで、出ろと煩かった人間が、そこまで驚く必要はないと思うけれど・・・・変な人。
まぁ、全てを内密にしている私の顔を知っている人間なんて、指で数えきれてしまう位しかいないから、行ってもつまらないでしょうね・・・・。
元々、公の場なんか嫌いなのだから、それはそれで仕方無いけれど。
気紛れになるだろうし、自分にとって何か利益があると思えば、どうにでもなる。
少しの時間我慢するだけでいい。
それだけで良いならば、私は行く。
きっと、何時かはこういう事が沢山出てくる。
それならば、今の内に慣れておかなければならない。
私は、財閥の娘。になりきれば良い。
自分に暗示をかけながら、漆黒のドレスを身に付け、父と共に、会場へと向かった。
「・・・・・・・・。」
何処か遠くに、行ってしまいたいと思ったのは、初めてだ。
何時もなら、逃げたりなんかせずに正面から立ち向かっていく俺が、こんな逃げ腰になるなんて・・・・・な。
(逃げたい・・・・・今なら、まだ遅くはない筈・・・。)
そうだ。遅くなんかない。
このまま、何処かに逃げたって構わないじゃないか。
しかし、どうやって?
どうやって力の無い俺が、この場所から逃げ出せるというんだ?
そう思うと、自然と嘲笑が浮かび上がる。
そうだ・・・・・俺は、無力だ。
(力なんか、ねぇよ。)
感傷に浸っている、その時だった。
「婚約おめでとう。」
聞き慣れた声がした。
俺の聞きたかった声が。
何故?
何故、お前が・・・・・・が、この場所にいるんだよ。
声が出ない。
突然、身体が、小刻みに震え出してきた。
これは・・・・・・夢か?
「何よ。元恋人との久々の再会よ。嬉しくないわけ?」
俺の反応が気に食わないのか、は面白くなさそうな表情をした。
「なん・・・・でいるんだよ・・・。」
「何故?貴方、頭良いのだから考えなさいよ。あぁ・・・・偽名使っていたから分からないわよね。私は。財閥の娘よ。以後宜しく。」
「なん・・・・な、何だよそれ!何故、隠していたんだよ!」
フザケンナと思った。
言ってくれればこんなことにはならなかったんだ。
俺が、こんなに悩む必要だって無かったんだ。
言ってくれれば、こんな婚約だって破棄できた。
それを・・・・・。
「私を怒るの?それは間違っているわね。これは、貴方が選択した結果よ。」
「だが、言ってくれれば俺だって・・・・・俺だって、親に反抗出来た!」
「馬鹿ね。悪いけど、そういう男には興味がないのよ。責任転嫁したいの?なら、すれば良いわ。私は気にしない。」
私を選ばなかった貴方が悪い。
親の言い成りになる男は要らない。
貴方は、自分の意思で路を決めたのよ。
それなのに、私を責めるの?
私が捜しているのは、自分の意思を貫き通す男よ。
大体・・・・・・・・・・・。
少し間を空けては俺に向かってこう言った。
「貴方、私の何を知っているのかしら?」
視界がぼやける。
目の前の女は、俺の知っているじゃない。
俺が好きになった女じゃない。
俺が唯一愛した女とは違う。
そう俺の中の自分が囁く。
じゃあ・・・・・目の前にいる女は誰なんだ?
そう問い掛けてみたが、返事は返ってこなかった。
「さぁ、行きなさい。今日の主役は、貴方とあの女なのだから。」
そう言って、は中央にいる俺の婚約者の女を指差した。
・・・・・お前は、どうしてそんなに平気な顔をしているんだ?
悲しくないのか?
悔しくないのか?
寂しくないのか?
どうして、そんなに落ち着いていられるんだよ。
俺は、こんなにも悲しくて悔しくて・・・・・自分が情けなく思っているのに。
あぁ・・・・そうか。
お前と俺では、一つだけ違いがあったんだ。
今になって、やっと分かった。
・・・・・・お前は・・・・・・・・・・。
俺を愛していなかったんだ。