「月が好きなんです」

そう、彼女が言った。











































と、彼女と、自分 の存在











































夜に、二人だけで会った。

初めてだった、彼女の方から、“会いたい”と言ってくれたのは。













嬉しかった。










心の底から、嬉しさが込み上げて来たのが分かる位に。

は、僕の事をどう思っているのか、不安だったから。






何時だって、“好き”と言うのは、僕の方から。

彼女は、後から“私も”と言うばかり。

デートで、“何処に行きたい?”って聞いても“光さんが、行きたい場所に行きたいです”と、言うだけ。








本当に、不思議でならなかった。

ただ単に、僕だけが、勝手に恋人同士と思って、喜んでいるだけだと、悔しかった。












虚しかった。

胸が、痛んで、仕方なかった。











は、優しいから。

怒りもしないし、嫌な顔だってしない。






ねぇ、本音は?

の、本音はないの??












悩んだ。

沢山、沢山悩んだんだ。

けれど、答えなんか出るはずもない。

だって、僕は、じゃないから。

彼女じゃないから、本当の事なんか、分からないんだ。































だけど、今日。


が、初めて僕を誘ってくれた。

夢じゃないかと、思った位だ。

も、僕と一緒にいたかったんだね。

そう思った。なのに・・・・・。












































“月が、好きなんです。”







































が、僕に言った。








好きだって。月が、好きなんだって。

月に、恋をしているんだ。は。

悔しかった。月に、負ける事が。




あんな、遠くから、僕等を見下ろしている月なんかより、僕の方が、の近くにいるのに。

それなのに、は、月を取るというのだろうか。


















冗談じゃない。

を、月なんかに盗られたくない。

奪われるのなんて、僕は、御免だね。








は、僕のモノだ。

僕だけの、

いくら馨でも、彼女を渡す事は無理だ。

これだけは、譲れないから。絶対に。



























「光さんは、月は好きですか?」



「僕?嫌いだよ。月なんか、大嫌いだ。」







僕がそう言うと、彼女は、悲しい表情をした。

胸が痛んだけど、見て見ぬ振りをする。

僕は、怒っているんだよ。






が、目を向けたモノなんか、大嫌いだよ。

が、興味を惹かれたモノも、大大大嫌いだ。

ましてや、“好き”なんて、いう月は、だーいっっっ嫌いだ。

、僕はね?嫉妬深いんだよ。物凄く。

何にだって、嫉妬する。まぁ・・・・料理は、仕方ないけどさ。」






そうさ。幼い子供みたいだけど、嫌なんだよ。






ふと、に視線を向けてみると、彼女は、笑っていた。






馬鹿にした様な、笑いじゃないけれど。



何が、そんなに可笑しかったのだろう。



僕は、変な事を、言ったかな。笑うような事を、言った?

僕が、不思議そうに見つめていると、は、こう言ったんだ。














































「私、光さんに愛されて、幸せです。」

























本当に、嬉しそうだった。




青白い月明かりに照らされながら、微笑みながら、は、そう言った。


何だか、神秘的な感じだった。

思わず、見とれてしまい、嫌な気分も、何処かに吹き飛んでしまっている。

あぁ、何て単純なんだろうか。

の、一言一言が、嬉しい。



















「光さん。」


は、笑顔を浮かべたまま、僕にこう言った。








































「これから先も・・・・側にいて下さい。」












あの時見た月を、もう一度見上げた時、嫌な感情は、沸き上がってはこなかった・・・・・。