音
「何を、聴いているの?」
ヘッドフォンを、取られてしまった。
折角、良い感じで聴いていたのに・・・・が、盗った。
「もう!返してよ!!」
「・・・・・短気ね。」
は、素直に返してくれた。
僕は、再度音楽を聴く事に、没頭する。
音、おと、オト。
音楽、おんがく、オンガク。
僕は、大好きだ。
音楽は、止む事はない。
僕が、止めなければ。
今は、と話をしたくなかった。
口を、聞きたくない。
・・・・・既に、少しだけ口を聞いちゃったけどね。
「だから!馨と何を話しをしていたの?!」
「何故、教えなければならないの。」
「は、僕の恋人だからだよ!」
昼休み。
は、馨と仲良く話しをしていた。
僕を、抜きにして。
僕を、仲間外れにして。
僕を、籠の外に出して。
「教えられないの!」
「怒鳴るのをやめて。」
「じゃあ、教えてよ!!」
結局僕は、何も聞けなかった。
も、教えるつもりがなかったのか“言えない”の一点張り。
悔しくて、たまらない。
馨に聞いたって、謝るだけで・・・・直ぐにいなくなっちゃうし・・・・・。
(悔しいな・・・・あぁ!もう!!)
今は、音楽で鎮めよう。
音楽だけが、僕の友達。
音楽だけが、僕の恋人。
音楽だけが、僕の安らぎ。
何だか・・・・・眠くなって来た・・・な・・・・・。
「・・・・・寝てしまったのね。」
「・・・・・・ん?今・・何時だろ・・・・・。」
「六時よ。」
「え!?六時・・・・って、何やっているのさ・・・・・。」
僕は、何時の間にか机に顔を伏せて眠っていた。
その隣で、が本を読んでいた。
どうして・・・・・どうして、僕の隣にいるの。
「僕、待っててなんて言ってないよ。帰ったら?」
「私が、勝手に待っていただけよ。」
は、本を読み続けている。
パラパラパラ・・・・と頁をめくる音が、教室内に響いている。
この音は、また違った安らぎをくれるのだろうか。
僕としては、安らぎの反面、余りに静か過ぎて、落ち着かなくなりそう。
「もう・・・・・一年ね。」
頁をめくる事を止めずに、は呟いた。
独り言じゃなく、隣にいる僕に向かって。
「・・・・・・・何がさ。」
僕は、知っている。
僕は、分かっていた。
僕だって、覚えている。
忘れる筈が、ない。
あの緊張感を。
あの時の、僕の鼓動を。
そして、あの時の・・・・嬉しい音を。
「中学三年生。この日から、私達は付き合い始めたでしょう?光は、忘れたのね。」
「・・・・・・忘れてなんか、いないよ。」
“そう”
彼女が言ったのは、それだけだった。
きっと、彼女の口癖なんだろう。
「一周年、おめでとう。」
「何・・・・?これ・・。」
甘い香り。
僕の周りに、甘い香りが漂って来た。
これは、お菓子?
何処のお菓子だろう。
「私が、作ったのよ。」
不思議そうに包みを見ていた僕に、が答えた。
が、作った?
これは、が僕の為に??
「馨さんには、気付かれていないか・・・何度も確認していただけ。」
“嫌な気分にさせて、御免なさいね”
が、僕の唇にキスをしてくれた。
初めて、からしてくれた。
もう僕からは、怒りの音は消え去っていた。
あるのは、嬉しさだけ。
今は、奏でているのは・・・・嬉しい音。
告白したあの日の音と、似ている気がした・・・・・。