元気でしたか?
「元気だった?」
彼女は、僕に向かってそう言った。
“元気だったよ”
彼女の問い掛けに、僕はそう答えた。
「それなら良かった。」
彼女は、笑顔を向けてそう言った。
“君は、元気だった?”
微笑んでくれた彼女に、今度は僕が問い掛けた。
「勿論、この通り元気よ。」
彼女_____は、微笑んだままだった。
本当に、元気なのだろうか。
酷く、青白い肌で。
どうして、笑っているのだろうか。
病室で、独りぼっちなのに。
僕は、不安になる。
時々じゃなく、毎日“不安”が、僕を支配していく。
“今日で、何年になるの・・・・?”
聞いても、良かっただろうか。
この病室に閉じ込められてから、何年が経過したのか。
病室。
彼女にとっては、檻みたいなモノなのだろうか。
病室。
見た目は、白くて美しい。
現実は、黒くて恐ろしい。
病室。
それは、地獄と均しい関係に思える。
そんな場所にいて、は気が狂わないだろうか。
「もう・・・・六年以上かしらね。」
僕の予想に反して、彼女は嫌な顔もせずに答えた。
表情は、相変わらず笑顔のままで。
「海に、行きたい。」
彼女は、言った。
“海を、見に行きたい”と。
“どうしても、行ってみたい”と。
“元気に・・・なったらね・・・。”
元気に。
元気に、なったら。
が、元気な身体になったら・・・・・。
そうしたら、行こう。
僕が、連れていくから。
これは、約束。
これは、裏切ってはいけない。
「光は、変わったのね。以前は、もっと子供っぽかった。」
昔を懐かしむ様に笑う、。
以前は、そう言われると・・・・怒っていた、僕。
今は、もう大丈夫。
僕は、もう怒りはしない。
「・・・・・約束よ・・・。」
“うん、約束だね。”
そう言って僕達は、小指を絡ませた。
「元気だった?」
僕は、彼女に尋ねた。
「元気よ。この通り。」
彼女は、笑顔で答えた。
「それなら・・・・安心したよ。」
そう言った僕に、彼女は笑顔を見せてくれた。
あの頃は、疑ってしまった。
余りにも、青白かったから。
(まぁ・・・・・今も、青白い感じはするけど・・・・・。)
あの日から、数年が経ち、は退院を果たした。
元気に、なって。
自分で、歩ける様にもなって・・・・・退院する事が出来た。
だから、僕が約束を守る番だ。
あの日から、忘れる事がなかった約束。
が、“行きたい”と願った場所。
「、行こうか。」
僕は、助手席の扉を開ける。
運転するのは、勿論・・・・・僕。
運転免許は、この日の為に取った様なもの。
「やっと・・・・・行けるのね。」
助手席に座っているは、嬉々としていた。
そんな彼女を見て、思わず僕も笑顔になる。
「行くよ。」
「お願いするわ。近々、私の旦那様になる光さん。」
「・・・・・・・何だか、照れるね。」
来月、僕とは結婚する。
お互いの両親も、快く了承してくれた。
今、僕は幸せだよ。
、君も幸せでしょ?
僕が、そう聞いたら・・・・・彼女は、頷いてくれた。
“私も、幸せよ”・・・・・と。