頬を、伝った。
有り難う。君に、感謝を
僕は、どれだけ君に言えば良い?
この言葉を、どの位欲しい?
君がいたから、僕がいる。
御礼を言っても、君は何も言わないだろう。
何も、答えてくれないんだろう。
一言も、話してくれないだろう。
“どうして”、“何故”・・・・そんな言葉は、必要ない。
僕達の、間には。
二人の間には、必要ない言葉だった。
「・・・・・来たよ。」
これで、六年だ。
六年もの間、は眠りに就いている。
目は、開く事はなく。
言葉は、発される事もない。
ずっと、眠っている。
まるで、百年もの間眠り続けている、眠り姫。
「今日はね、久々に皆に会ってきたんだよ。」
僕は、に話し掛ける。
けれど、彼女は何も言わない。
「皆さ、変わってないんだ。まぁ・・・・ちょっとは大人になったかな?」
僕は、に話し掛ける。
けれど、彼女は何も言わない。
「そうそう、殿とか鏡夜先輩とかがさ・・・・“は元気か?”だってさ。」
僕は、に話し掛ける。
けれど、彼女は何も言わない。
「ひ・・・かるも・・・・邦・・光・・せ・・・ぱい・・崇・・・先輩・・も・・・・・さ・・・・・。」
泣いちゃいけない。
今は、話し掛けるしかないんだ。
六年。
僕は、六年の間・・・・・こうやって話し掛けている。
彼女が、現実に戻ってくる様に。
早く、目覚める様に。
がこうなったのは、僕のせい。
眠りに就いてしまったのは、僕が飛び出したから。
彼女は、庇った。
彼女は、救った。
彼女は、生かしてくれた。
代わりに、彼女は眠りに就いた。
これは、永遠の眠りじゃない。
は、休んでいるだけだ。
「早く・・・・目を覚まして・・・・。」
目を覚まして。
そして、僕に言って?
“また・・・・泣いているの?”って。
“悲しまないで。私は、側にいるから。”って。
「目を、覚ましてよ!!!」
声が、聴きたいんだよ。
この六年。
が、眠っているこの六年。
僕は、僕はね・・・・・?
「ぅ・・・・・っく・・・・・・・っ・・好き・・ス・・キ・・・スキだよ・・!!」
“嫌いだ!”
一言。
この一言で、傷付く人はいる。
その一言を、僕は・・・・に言った。
嘘なのに。
嫌いじゃないのに。
口にしてしまえば、引っ込める事なんか・・・・出来やしない。
その直後、僕は飛び出した。
信号が、赤だったのに・・・・・気が付かずに。
“馨!!!!”
一瞬だった。
それは、カメラのフラッシュかの様な。
瞬きさえ、許されない速さで。
は、僕を護ってくれた。
傷付けた、僕を。
嘘でも、“嫌い”と言ってしまった僕を。
「・・・・どうしてさ・・・。」
御免ね。
今だけ、今だけ“どうして”を使わせて。
どうしても、使いたい気分なんだよ。
「その言葉は・・・・・嫌いだと言った筈よ・・・。」
幻かと、思った。
幻聴かと、感じた。
「また・・・・泣いているの・・・?」
これは・・・・・。
まさか・・・・・・。
「・・・・・?」
「貴方・・・・何時から、そんなに泣き虫に?」
これは、の声だ。
幻聴なんかじゃない。
「これは・・・・悲しい涙・・・?」
「あ・・・・これ?これは・・・・。」
彼女の冷たい手が、僕の頬に触れる。
僕の頬に伝う、この涙は。
涙は、確かに悲しい涙だった。
「これはね、嬉し泣きだよ。」
が、目覚めてくれたから。
悲しい涙から、嬉しい涙へと変化したんだ。
「あの時は・・・・御免ね。僕、に酷い事を言っちゃった・・・。」
「良いのよ。馨の事は、手に取る様に分かる。あれが、嘘だという位・・・・分かっていたわ。」
「・・・・・・・サスガはサン。」
僕が、苦笑いをしたら・・・・・彼女は、微笑んだ。
こうやって話す日が来るのを、僕は待っていたんだ。
「あのね?。」
「何かしら。」
「僕、に言いたい事があるんだ。」
僕は、深呼吸をする。
この六年。
僕が、言いたかった言葉。
それを、遂に言えるんだ。
「僕を庇ってくれて・・・・その・・・・有り難う。」
先ずは、御礼を言わなくちゃいけない。
は、僕を助けてくれた。
僕の、命の恩人だから。
僕の言いたい事には、まだ続きがあるんだ。
は・・・・聞いてくれる?
一生懸命、練習をしてきたんだよ。
君に、伝えたかったから。
今、言わせて下さい。
「、結婚しよう。」