ちょっとだけ、距離を縮めてみた
普段なら、近付かない。
普段だったら、近付けない。
でも、今日は・・・・・今日こそは、少し距離を詰めたくて、僕から話し掛けてみようと決心をしたんだけれど・・・・・。
(・・・・・・・・・・・・・・・・。)
どうしても、駄目なんだよなぁ・・・・・。
いざ、頑張って近付こうと脚を動かしてみるけれど、どうしてか上手く動いてくれない。
全く・・・・・こんな時には、動かないなんて。
違う時には、さっさと動いて。
こういう大事な時には、簡単には動いてくれない僕の脚。
と、話がしたい。
彼女と、友達以上の関係になりたい。
だから、今日こそはと思っているのに。
思って・・・・・いるのに・・・。
「僕は、駄目なんだなぁ・・・・・。」
「そうね。貴方は、駄目な人ね。」
「うわぁ!!!」
「どうも。常陸院馨さん。毎日私を見てくれて有り難う。」
「え・・・・な・・何の事?僕が、君を見るわけないじゃないか。」
「あぁ・・・・・そう。私の勘違いだったのね。」
目の前に、がいる。
目の前で、僕に向かって笑いかけている。
嘘だ。
嘘だ、嘘だ、嘘だ。
僕は、夢を観ているに違いない。
これは、僕の願望で・・・・・その願望が、夢になって表れたんだ。
そうだ。そうに決まっている。
きっと、抱き締めようとすると、彼女は消えていなくなってしまう。
なら、この笑顔を忘れないように、焼き付けておこう。
そう思ったから、僕はずっと彼女の顔を見つめていた。
「何を、見ているの。私の顔に何か付いているのかしら?ねぇ?常陸院馨さん?」
「いや・・・・ちがっ・・・・じゃなくて・・・痛い!痛いから・・・・!」
頬を、抓られた。
結構、痛かったけれど・・・・・夢じゃないって解ったのが嬉しかったかも知れない。
そう思ったら、自然と顔がにやけてしまった。
変な男だと思っちゃったかな?
でもね?幸せだから、そんなの気にしてられないよ。
そんな事思っていたら、今度は両頬を抓られた。
やっぱり痛くて、僕はもっともっと幸せな気分になった。
“変な人”と、彼女は言った。
“可笑しい人”と、彼女は僕を見て笑った。
“面白い人でもあるのね”と、彼女は自分が抓った僕の頬を、“御免なさい”と言いながら、撫でてくれた。
そんな行為が、僕をもっと嬉しく、幸せな気分にしてくれた。
愛しいなぁ・・・・・・。
君を、見たあの日から、僕の視線は君しか追わなくなってしまった。
僕の心は、突然風が吹いて、遠くの空へ拐われてしまった一枚の葉の様に、君に拐われてしまったんだ。
あの時から、君に近付きたくて、話し掛けてたくて、色々な場所に連れていきたくて仕方なかった。
君の手を取って、何処までも歩いていこう。
でも、その前に言う事があるんだ。
僕は、勇気を振り絞って言うから、笑わないで聞いてね?
「僕は、さんが大好きです。君が良ければ・・・・じゃないや。君が嫌だとしても、奪いたいんだけど・・・・・良い?」
勇気を振り絞って、言ってみた。
すると彼女は、何も迷うことなく僕に言った。
「私も好きよ。だから、今日は頑張って貴方に話し掛けてみたのだから。」