先輩と、最近よく会う。
あの人は、不思議な人だ。
特別な日。
以前、砂遊びをしていた先輩に出会った。
その時の、俺は、非常に機嫌が悪かった。
そんな時、先輩と出会ったんだ。
出会い方としては、最低、最悪。
何故ならば、俺が、先輩が作っていた砂の城を破壊したから。
破壊。
崩壊。
壊してしまった。
『・・・・・・君は、私のしたかった事を邪魔したな。』
先輩は、俺を見ようとせず、ただただ壊れてしまった砂を見ていた。
『ケッ・・・・・・・。』
”邪魔して何が悪い。”
その時は、そう感じた。
『君に、私のしたい事を邪魔する権利はない。
否、何人たりとも、邪魔をする事は許されない。だって、自分達だってそうだろう?
それなのに、どうして邪魔をするんだ?
私は、これを完成させたかった。させたかったんだ。
これと同じモノは、二度と出来ない。出来ないんだぞ?
さぁ、君は、どう償ってくれるんだ?邪魔した代償は、あるんだろうな。』
償う?どうしてだ?
そんなモン、どうして俺が、償わなければいけないんだよ。
「くだらねぇ。俺は、償う気はねぇよ。」
俺は、それだけ言い残して、その場を後にした。
俺を見つめたまま、動こうとしない先輩と、ただの砂に戻ってしまった、モノを残して・・・・。
それから、何度か先輩に出会った。
どうしてかって?
そこは、俺に帰宅路。
前も、今も、これからも。
これは、変わる事はない。
俺は、先輩が苦手だ。
出来る事ならば、避けたい人物。
「また、砂遊びっすか。」
俺は、出会う度に砂遊びをしている先輩に出会う。
それが、先輩のやりたい事・・・・・・らしい。
「先輩、学校は?」
「行っていない。最近はな。
理由は、至極簡単。あそこは、私の居るべき場所じゃない。
勘違いするなよ?私は、苛めを受けた事で、登校拒否になったんじゃないから。
私は、私の意志で、行っていない。」
あぁ、そうですか。
何なんだ?この人。
本当に、俺は、この人と居るのは苦手だ。
じゃあ、何で帰路を変えないのか。
理由は、俺が、その道が好きだったから。
ただ、それだけ。
そう思っていた。
そう考えていた。
あの時は。
あの時間は。
「先輩。」
俺は、また公園で先輩にあった。
今日の先輩は、ジャングルジムの一番上にいた。
砂遊びは、もう飽きたのだろうか・・・・・?
「何だ。また君か。」
・・・・・・・この人、どうして俺の事を”君”って呼ぶんだろう?
まぁ、理由は”そう呼びたいからだ”
とか何とか言いそうなので、敢えて聞かない。
周りに、流されない先輩は、俺が何を言っても無駄だろう。
たとえば、俺が名字で呼んで貰いたいと思っている事。
もっと、我が儘を言えば、名前で呼んで貰いたい。
そう、”赤也”と。
最近の俺は、そう思い、そう願っている。
「今日は、どうした?いつもより機嫌がよさそう。」
「ヘヘッ。やっぱ、分かるっすか?」
そう、今日の俺は機嫌が良い。
なんたって、俺の特別な日。
俺が、この世界に生まれてきた日なんだ。
だから、ちょっとの事で機嫌が悪くなる事はない。
そう、先輩に言ったら。
先輩は、
”そうなんだ”
と、ただ一言そう言った。
それだけなのか・・・・・。
先輩、俺に言う言葉は、それだけ?本当に?
「赤也。」
先輩が、俺の名前を呼んだ。
「人間の寿命は、短い。」
「・・・・・・・・・だ、だから?」
だから、何なんだ?
人間の寿命?短い??
いきなり、何を言い出すのだろうか?
「八十年位だぞ?八十年。
その間に、何が出来る。あぁ、誰もが八十年だとは言い切れない。断言できない。
人生は、分からない。そう・・・・・・分からないんだ。明日もどうなるかも分からない。
もしかしたら、神にだって分からないかも知れないんだぞ?
なぁ、赤也。お前、今日は、悔いなく生きたか?過ごしたか?
後悔って、先に出来ないから、後悔だけど、出来るならば、後悔は、少ない方が良いよな?そう思うだろ?」
だから・・・・・それが何なんだよ。
俺、さっぱり分からないんだけど。
「で、でも・・・・・俺、まだ十代だし・・・・。」
困った。非常に困った。
この状況どうしたらいい?
先輩は、俺に何を伝えたいんだ??
「要するに、歳じゃない。
やれる事は、限られているかも知れない。
だが、人生は、一度きり。”切原赤也”である人生は、一度きりなんだ。」
「俺が・・・俺であるのは・・・・・・・?」
一度だけ。
”切原赤也”にやり直しはきかない。
やり直し・・・・・ゲームのようには、ならないんだ。
ビデオのように、巻き戻しも・・・・。
そんなモノは、”存在”しない。
「・・・・・・・・・と、言う訳だ。楽しく・・時に、辛く。自分の人生を。
誰に左右されず、自分自身で決めながら。君の人生は、誰にも決める事は出来ない。
まぁ、助言位だよな。出来るのは。後は、自分自身で決めるんだ。そうだろ?」
俺の、人生。
それは、自分で決める。
人に流されずに・・・・・・。
それから。それから・・・・・最後に、先輩はこう言った。
「誕生日、おめでとう。切原赤也。」
今日は、特別な日。
俺は、先輩を好きになった気がした瞬間。
この時を、忘れない。本当に、特別な日だから。