なんだかんだ言っても、先輩が好きなんだ。






































いてほしい



















先輩。立海の三年生。

そんでもって、俺、切原赤也の最近気になってる人物、No.1の人。



気になるっすよ。

いつも一人でいて、何を考えているのか分からない。理解不能。


話し掛けても、時々なら返事はしてくれるけど、余り期待は出来ない。

これで、興味持たせろって・・・・無理がある様な気がする。違う?


これでも俺って、かなり頑張っているのに。

どうして、先輩は、俺を見てくれないんだろうか。


























この努力は、報われる日が来る?





















「おい、赤也。何落ち込んどるんじゃ?そこ、俺等の特等席だから、退け。」

「なんすか、仁王先輩。俺、今凄い悲しいんすから。」



俺は、昼休みにかなり落ち込んでいた。

そんな俺の目の前に、仁王先輩と、先輩がやってきた。









二人は、恋人同士。



あぁ、畜生。何でこんな所で会っちゃうんだよ。

いや、こんな落ち込んでいる時に会いたくなかったよ。

何時から特等席って決まってたんだよ。

俺、そんなん知らねぇよ。聞いてないよ。

今、初めて知った位だよ。


「何だ。またフラれたのか?切原、一体、今回で何回目だ?お前もいい加減諦めろよ。」

先輩は、ニヤニヤと笑っている。

はぁ……この人、苦手なんだよな。と、言うか怖い。

最強じゃないのかって位に。真田副部長でさえ、勝てねぇよ。

力では勝てるかもしれないけど、言葉では、勝てないだろうな。




「うっさいっすよ。俺は、そんなに諦めが早い方じゃないんすよ。

だから、簡単に諦めないの。そんな軽い気持ちで、先輩を好きになったんじゃないんすから。」




そうだ。簡単じゃない。ふざけても、遊びでもない。だから、俺は諦められない。




「そうか。それで、今日はどんな断られ方をしたんだ?」

「あぁ、今日は…………。」
























あれは、お昼休みが始まってすぐの事だった。

俺は、毎度の事ながら、先輩がいる屋上にやってきた。


そこには、何かに集中している先輩がいた。

よく見てみると、まだハマッているのか、ドミノをしていた。

屋上でドミノか・・・・本当にハマッているんだな。



先輩!!!」

「君、今は話し掛けないで。私は、集中しているんだから。」

先輩は、俺の方を向いてくれない。向こうともしない。

だから俺は、ムキになってしまった。だから、先輩を無理矢理俺の方に向けた。


















その時だった・・・・・。

























「「あ・・・・・。」」












ドミノが、崩れていく。

バラバラと・・・・。

綺麗に立てられたドミノが、全て倒れ、床に散らばっていく。








跡形も失くなってしまった。


俺は、先輩にとって、いけない事をしてしまったんだ。













”邪魔”






邪魔。

それだけは、禁忌。やってはいけない事。絶対に。



先輩は、何よりも”邪魔”を嫌う。それを、俺がやってしまった。




「・・・・・・・・壊れた。」

「す、すんません。直しますから!!」

「直す?完璧に?完全に?元の形に?同じ様に??一つの狂いもなく??

戻せるのかな?君。どうなんだ。そうだとしたら、素晴らしい才能だ。

あぁ、私にも欲しい位だ。大体、全く同じなんて無理なんだ。無理難題だ。困難だ。

数ミリ位、ズレが生じるに決まっている。

全く同じに作れるなんて、人間の域を超えているんじゃないかと思うね。さぁ、見せてくれるかな?」




先輩は、笑っていなかった。

泣いてもいなかった。

怒ってもいる様な雰囲気ではなかった。


だけど、俺は怖かった。



あの場所が。



先輩が。



あそこにいた、俺の存在が。






















「だから、逃げてきたのか。」













そう、だから逃げた。

そして、この場所で反省していた。ずっと・・・・。


「馬鹿が。屋上に戻れ。」

「い、嫌っすよ・・・。余計嫌われたらどうするんすか。」



「はん。お前、嫌われているんだ。

にとって、お前は”敵”の領域だったのか。

へぇ、それはそれは・・・・。

私は、お前が勝手に嫌われたと決め付けているだけに聞こえるが?

何だ、違ったのか。いつ、が”嫌い”って言ったんだ?教えろよ。

おい。言われたか?”敵なんだ”って。その位で、が嫌いになるとは思えない。

は、そんな奴じゃない。お前の。勝手な思い込みだ。逃げるな。

お前は、馬鹿だ。その程度の気持ちなら、消えろ。”好き”なんて言葉を口にするな。

に、囁くな。私がお前なら、一緒にドミノをやってやるぞ。違うか?

あの子は、本音を言わない。”言わなきゃ分からない”は、絶対に通用しない。

あぁ、無理さ。完璧に分かるのは。だが、端は分かってやってもいいだろ?

いや、分かれ。感じろ。だって、お前の気持ちは分かってくれるだろうよ。」














先輩は、笑った。









嫌われて、ない?

確かに、一度もそんな事を言われていない。そんな態度だって、ない。


俺の、思い込み。

そういわれるとそんな気もしてくる。俺は、単純なんだろうか。

単純・・・・・なんだろうなぁ。俺。



「赤也、行きんしゃい。」

仁王先輩は、俺の頭をポンッと軽く叩いた。


「分かったっすよ・・・行くっす。」

俺はそういうと、立ち上がり、渋々と屋上に向かった。




「世話の焼ける坊やだな。赤也は。」

「ま、見届ければええじゃろ。そんな事より・・・・な?」

「・・・・・・・・バーカ。知るか!」



























先輩!!!」

「何だ。また凝りもせずに来たのかな?君。」


先輩は、相変わらずドミノをやっていた。

俺が、壊してしまったドミノを直しているようだった。

「あ・・の・・・すんませんでした!俺、俺も一緒にやって良いっすか?」

「もう終了したから、大丈夫。君が、やる事はもうない。」



あぁ・・・・・一歩遅かったのか。

どうやら、俺が、来た時には完成していたらしい。残念。

俺が、してあげられる事は何もないのだろうか・・・・。























「あぁ、あったぞ。一つだけな。君にだったら、出来るだろう。」

「な、なんすか・・・?俺に出来る事なんすよね?」

「そう、出来る。私は、そう信じたい。

私が信じたのだから、君はやらなければならない。分かる?

これは、決まった事。だから、拒否権は、ない。しても無意味。」



そんな無茶苦茶な事ってあるんすか。

無茶苦茶も無茶苦茶。だけど、先輩らしい。俺は、そう感じた。

「で・・・俺が、先輩に出来る事って?」

その質問に、先輩はこう言った。

























「君に出来ること、それは、私にテニスを教える事。」

「テニス?」

「そう、テニス。」



先輩は、満面の笑顔で頷いた。

うわっ、初めて見た。先輩の、笑顔。可愛いじゃないっすか・・・・じゃ、なくて!!

テニスを、教える?俺が??






「はい、決まり。良いよね。構わないよね。

教えられないなんて、言えない筈。

君は、テニス部で、レギュラーで、ルールとか基本的な事とか知り尽くしているんだから。

言えないよね?そうだろう?違う??君だって、初心者だったんだから、分かるだろう。文句は無しだよね。」


「でも、どうしてテニス??」

「興味を持ったから。あぁ、違うな。これじゃあ言い方が、良くない。

切原赤也が、好きだという、テニスに興味を覚えたから。」






嬉しかった。かなり。

先輩が、少しは俺に、興味を持ってくれたって事だろ?








あぁ、本当。一つでも、好きな人に興味を持ってもらえるなんて、こんな幸せな事があるんだろうか。

やっぱり、先輩は、俺にとって側に居てほしい人なんだ。










そう、再確認出来た。今日の午後。