届いて
Antrag
俺、駄目だった。
何もかも、駄目だった。
こんなのって、有り?
「せんぱーい・・・・この状況、どうよ?」
「さぁ。」
“さぁ”っすか。
“さぁ”で、片付けられちゃう程、簡単なんすか。
うわー・・・・・俺、泣いちゃうっすよ。
「ふぅん・・・・・立海・・・こんなに、強かった?」
「ブー・・・・・・。」
「何?豚の鳴き真似?」
「違うっすよ!!拗ねてんの!」
「どうして。」
どうして、分からないのかなぁ!
何で、そんな不思議そうな顔するんすかね!
『試合?』
『そ、試合。』
一週間前。
どうしても先輩に、試合をしている俺の姿を見て欲しくて誘った。
『・・・・・・面倒だな。しかも休日。私は、ゆっくり過ごしたいんだけど。』
『えー・・・・・俺の事、見てくださいよ。』
俺は、上目使いで先輩を見る。
こうすれば、可愛い俺に、胸がキュンとなって了承_____なんて。
『どうして?』
・・・・・・・・思ってた俺が、馬鹿でした。
先輩に、可愛い子作戦は、通用しないっすよね。
何やってたんだろ・・・・分かっていた筈なのに・・・・・。
_____と、その日はそんな感じで、終わった。
でも、試合当日。
先輩は、来てくれた。
まぁ・・・・先輩が、引きずりながら来たんすけどね。
「にしたって・・・・俺の試合中に、他の男見てたっしょ!!」
「見てない。」
「見てたっす!」
「証拠は、ある?君は私じゃないのに、どうしてそんな事が言えるの?」
どうしてって・・・・・。
どうしてって、決まってんじゃないですか。
視線ってか、顔自体が向いてたんすよ!
顔自体が!!
そう、先輩は氷帝の忍足っつー奴を見てた。
俺は、自分の目で見たんだから間違いないっすよ。
絶対に、間違いない!
「先輩・・・・浮気したら、俺もするっす!」
「したら?」
_______撃沈。
「うぅっ・・・・愛されてない。全然、愛されてないっす。」
「そう?」
「プッ・・・・赤也、哀れじゃの。」
仁王先輩め・・・・何だよ。
自分だって、哀れな姿を曝している癖に!!
人の事、言えるのかよ!!
「なぁ、そこのお嬢さん。」
「ん?」
「ずっと、俺の事見てたやろ。」
氷帝の・・・・忍足!
俺の先輩に、話し掛けてきやがった。
「おい、先輩に近付くんじゃねぇよ。」
「何や。チビは下がっとき。」
「チッ・・・・!!!???」
忍足は、余裕。
俺は、余裕じゃない。
一つ違うだけなのに、こんなに差があんの?
「ねぇ、私に何か用?あるなら、さっさと済ませて何処かに行け。」
先輩は、忍足の脚を思いっきり蹴った。
そりゃあもう、これでもかって位の威力で。
「ほら、用があるんでしょう。言いなさいよ。無いなら、自分の陣地に帰れ。」
「・・・・・・お、覚えとき・・俺の脚を蹴るなんて・・・。」
「私、忘れるの早いから。君の事興味ないし。」
忍足は、もう何も言わずに去って行った。
良い気味だと思う反面、男の俺としてはちょっと・・・・・。
「全く・・・・私は別に、奴を見ていた訳じゃないのに。勘違いも甚だしい。」
「え・・・・・じゃあ、何を見てたんすか?」
「うん?鳥。」
「鳥??」
「そう。空を、気持ち良さそうに飛んでいる鳥。」
先輩は、ずっと鳥を見ていたらしい。
取り敢えず、他の男を見ていなかったのには安心した。
でも・・・・でも・・・・・・・・。
「やっぱ、俺以外を見ていたのには、納得いかないっす!!」
先輩には、俺だけを見ていて欲しい。
それが、俺の願い。
この願いが、何時か届きますように・・・・・。