こんな、俺
気取った恋
強がっていた。
彼女の為に、背伸びしたかった。
さぁ、この距離は後どの位?
どれだけ走り続ければ、追いつける?
君は、俺を置いていく。
頑張って・・・・・頑張って、追い付こうとしている俺を。
君は、笑っている。
背伸びしている俺を、見て。
君は、立ち止まる。
俺は、追い掛ける。
君は、歩き出す。
俺は、引き離される。
この繰り返し。
ずっと、ずっとこれの繰り返し。
「やっぱ・・・・・追い付けねぇっ・・・!」
「誰にです?」
「先輩・・・・。俺、こんなだけ頑張っているのに。」
「おや、君は、君とお付き合いを?」
“それは、知りませんでした。”
柳生先輩は、俺に謝った。
いや・・・・・謝られても、困るんすけどね。
だって、悪いことしてないじゃないっすか。
「で、彼女に・・・・追い付きたい、と?」
「そうなんすよ。俺、相応しい男になりたいんす。」
「相応しい・・・・・ですか。ですが、切原君。無理しても、良い事はありませんよ?」
「そうっすかね・・・・俺は、無理してでも相応しくなりたい。」
分からない訳じゃ無い。
そんなの、分かり切ってる。
だけど、そう思っても、上手く制御できない。
「やっぱ、他の野郎に盗られたくないし・・・・。」
先輩は、俺の恋人。
俺が、必死に口説いた人。
そうそう、他の野郎に盗られるなんて、嫌だ。
そうなったら、俺は彼女を壊してしまうかもしれない。
壊して、壊して、コワシテ。
今の関係に、修復出来なくなる位に。
「しかし、君の感情とは逆に、彼女は今の君が好きなのでは?
あ・・・いや、きっと背伸びした君も、好きなのでしょう。ですが、今は今の君が好きなんだと思いますよ。」
“意味が分からない”
そう、柳生先輩に言ったら。
“私も、よく分かっていませんので”
と、言われてしまった。
「見つけた。」
影が、出来た。
それは、先輩が、俺の上に来たから。
「随分、捜した。途中で柳生君に会ってね。教えてもらったんだよ。」
「柳生先輩に・・・・そうっすか。」
「元気ないね。私は、何時もの無邪気に笑っている、切原赤也が好きなんだが・・・・まぁ、たまにはあるな。人間だから。」
先輩は、俺の頭を撫でてくれた。
俺は、何だか気恥ずかしくなった。
でも・・・・・でも、先輩は・・・・。
無邪気な俺が好きって、言ってくれた。
「そっか・・・・そうなんだ。」
なんか、背伸びしようとしていた自分が、馬鹿馬鹿しい感じがした。
今の俺が、好きなんだ。
今は、このままの俺で良いんだ。
この先、変化はあるだろうけど・・・・。
今は、このままで。
「どうした?」
「ヘヘッ・・・・秘密っすよ。」
このままで、いよう。
気取った恋は、俺には似合わないから。