君しかいないと思ったんだ。
それが、俺の直感。
思ったんだけれど
ふと、考えた。
ある、一人の女の事を。
時間が失くなるのも惜しくない位、考えていた。
は、クラスメイト。
しかし、話した事は一度もない。
同じクラスになって、一年と半年になるのに、一言も話さない。
これは、何か問題があるだろうか。
俺としては、さほど問題はない気がしている。
しかし、心の何処かでは、彼女に興味を持っている自分がいる。
俺が、興味を持ったのには理由があった。
あの日は、委員会があり、帰りが少しばかり遅くなってしまった。
俺は、荷物を取りに行くために、教室へと向かった。
教室の入口の前に立った時、誰かが中にいるのが見えた。
(こんな時間に、誰かいるのか?)
俺は、誰がいるのか確認しようと、教室の中へと入った。
入って直ぐに、足を止めた。
動けなかった。どうしても。
俺の視線の前には、がいた。
彼女は、俺の存在に気付かない。
ただ、紅く、燃えるような夕空を見つめていた。
他を見つめる事は、一切無い。
そこには、彼女の空間しかなかった。
入り込むのは、許されない。
そんな事を、してはいけない。
俺は、そう思った。
だから、見つめるしかなかった。
無言のまま、彼女の名前を呼ぶわけでもなく。
「・・・・・・・・鳳さん。」
「やぁ、まだ帰っていなかったんですか?」
彼女が気付いたのは、夕日が沈んだ後だった。
もう、辺りは暗闇に支配され、月が光りを発しているだけだった。
「あぁ、もうこんな時間。帰らないと、怒られてしまうわね。」
彼女は、苦笑して、立ち上がった。
「それにしても、初めてですね。こうやって、話しをするのは。」
「確かに。」
こんな日が、来るとは思わなかった。
だが、こうなる事を望んでいたのだろうと思う。
もっと、何か話さなければならない。
そう思いながらも、次の言葉が出てこない。
何を言ったら良いのか、分からない。
普段ならば、自然と言葉が出てくる筈だが、今日ばかりは違う気がする。
俺らしくもない。
「鳳さんは、まだ帰らないのですか?」
「あぁ、帰りますよ。明日もある事だし。」
俺は、我に返り、帰り支度を始める。
一体、何を考えているのか。
自分でも分からなくなる。
自分で自分が分からない。
こんな事が、あっていいのだろうか?
「じゃあ、お気を付けて。」
「さんも、気を付けて。」
俺は、彼女を見送る。
見えなくなるまで、ずっと同じ場所で、見つめていた。
「・・・・・行ってしまったか。」
俺だけが、後に残された。
あの日は、あれだけで終わってしまった。
他には、何も無かった。
「そうか・・・・・。」
俺は、一人呟いた。
あの時、思ったんだ。
彼女を見送って、感じた事がある。
彼女じゃなければ、駄目な様な気がした。
たった数分。
数分の出来事なのに、こんな事を考えてしまう自分に、苦笑してしまう。
明日は、彼女を誘ってみよう。
彼女が、喜んでくれたらなら、絶対に、こう言うだろう。
“俺と、付き合って欲しい”と・・・・・。