「・・・・・・・気に入らないわ。」
納得なんて、しない
自分の隣にいる、先輩が呟いた。
先輩の視線の先には、間違いなく鏡夜先輩がいる。
鏡夜先輩の、何が気に入らないのだろうか。
確かに、黒い。
黒としか、言いようがない位、黒い。
あの笑顔の裏は、闇で包まれていて。
一体、何を考えているのか分からない。
きっと今日も、自分の利益だけを考えているのかも知れない。
万が一、周りの人の事を考えているのであれば、きっとそれは夢のまた夢。
世界が終わろうとも、鏡夜先輩は自分の事を考えるだろう。
そういう人だから。
(どうして、先輩は・・・婚約者なんかになったのだろうか。)
「何か・・・・・言いたそうな顔をしているわね。ハルヒ君。」
「え?あ?は?いえ・・・・自分は・・・・・。」
「言いたい事があるなら、言いなさい。言ってしまった方が、楽よ。」
先輩は、鏡夜先輩から視線を変えた。
そう・・・・・自分の方に。
先輩の瞳は、とても綺麗だと思う。
宝石でいえば、エメラルド。
本当に、宝石がそのまま埋め込まれているかの様だ。
美しいと言えば、簡単だ。
でも、その型に納まらない綺麗さがある。
「言いたい事は、何かしら。」
「・・・・・あの、どうして鏡夜先輩の婚約者に?他にも、沢山いるじゃないですか。自分には、分かりません。」
「・・・・・どうして?それは、意外な質問だわ。」
先輩は、軽く笑う。
そんな事を、聞かれるなんて思わなかったのだろうか。
それとも、そう思う自分が、可笑しいのだろうか。
「私・・・・・いえ、私達は・・・・恋愛なんて出来ないのよ。」
先輩は、話始めた。
「私は、恋愛の“れ”の字も知らない。知ったとしても、必ずしも結ばれるとは限らないわね。
・・・・・なんとまぁ・・つまらない人生。親に決められた、道を。造られた線路を。私達は、ただただ歩いていくだけ。」
「・・・・・・・・・・・。」
自分にとっては、分からない。
どうして、好きに道を選べないのか。
未来を、決められないのか。
そんな、自由がないのか。
“そういう、決まり”
そう言ってしまえば、終わってしまう。
言葉にするのは、至極簡単だ。
でも、本当に良いのだろうか。
自分だったら、絶対に嫌だと思う。
「私の場合、彼が強引に婚約に取り付けたのだけれど・・・・・ね。」
先輩は、鏡夜先輩を嫌いと言う。
鏡夜先輩は、先輩を好きと言う。
言葉は、違うけれど。
全くの、正反対なんだけれど・・・・・。
そう言った二人の表情は、何処となく似ている気がした。
・・・・・・・・・ま、そんな事を言ったら全否定されるから、言わないけれど。