愛
情は生きている
失くなったと、思った。
俺には、感情なんて・・・・全く存在しないと思っていた。
あるとしても、決して表に出さない。
出せば、相手の思う壷。
そうなってしまえば、相手のペースに嵌まる。
俺は、絶対にそうならない。
ならない様に、内に閉じ込めた。
(何なんだ・・・・・これは・・・。)
最近の俺は、どうも調子が狂っている。
俺が、俺じゃないみたいだ。
どうしてなのか。
どうしてかは・・・・何と無くだが、分かる。
しかし、曖昧だ。
これは、確実じゃない。
曖昧の中の、曖昧。
だから、言葉に出来ない。
「鏡夜は、最近考え事をしているのか?」
「何を言っている。俺は、何時だって考え事をしている。」
「そうか?最近は、物思いに耽っているというか・・・な・・・・。」
「・・・・・・・気のせいだ。」
環は、時に鋭い。
自分の事に関しては、鈍いのにな。
どうして、こんなに鋭い時があるのに・・・・・・・・否、考えるのは、止めよう。
今は、必要のない事だ。
必要ない事を、考えるなんて・・・・馬鹿げている。
時間を割くのは、止めよう。
「ハルヒさん。」
俺の思考が、止まりそうになった。
停止。
完全に、停止しそうになる。
「あ、さん。今日はどうしたんですか?」
「あの・・・・これを。」
俺は、ハルヒの方を盗み見る。
そこには、俺を可笑しくした人物がいた。
。
彼女の声を聴くと、可笑しくなる。
彼女の存在を感じると、可笑しくなる。
彼女の名前を聞くと、可笑しくなる。
全てが、彼女。
別に、彼女が悪いんじゃない。
俺の中の感情が、こうさせている。
(この時は・・・・好きじゃない。)
思考が、鈍る。
俺にとっては、芳しくない。
この部屋から、出ていこうか・・・・。
それとは反対に、身体は一向に動く気配をみせない。
「へぇ・・・・お菓子。有り難うございます。」
ハルヒは、笑顔で彼女から綺麗に包装された、箱を受け取っている。
それを見た俺は、何だか妙な気分になった。
何なのだろうか。
ドロドロしていて、気分が悪い。
胃の辺りが、何故か調子が悪い。
ムカムカする。
昼食時、変なモノは食べていない筈なのに。
またしても、原因は彼女なのだろうか。
どうしてなんだ。
これは、何なんだ。
表情が、険しくなっているのが分かる。
アンナコウケイヲ、ヲレハミタクナイ____。
脳が、命令した。
俺の身体は、それに従った。
迷う事なく。
正直に。
不可解だ。
理解できない。
出来る筈が、ない。
「・・・・・あの?」
これは、俺じゃない。
きっと、操られているんだ。
本当の俺は、こんな行動をとらない。
・・・・・・・・じゃあ、此処にいる俺は、何者だ?
「・・・・・嬢。済まないが、一緒に来てくれないか?」
「鏡夜、一体どうしたんだ?」
「どうした・・・・・だと?」
俺が、知りたい。
この俺が、教えてほしい。
この中に、答えに導いてくれる人間は、いないだろう。
「失礼する。」
彼女の答えを、待っていられない。
多くの女子生徒が、何か叫んでいたが・・・・そんな事は、気にしていられない。
「済まない。」
俺は、嬢に謝った。
あの時は、自分の中に、余裕がなかった。
空っぽだったんだ。
「正直・・・・・よく分からないんだが。どうしてか、ハルヒに嫉妬したらしい。」
あの不快感。
二度と、味わいたくない気分にさせた感情。
俺の中にも、存在していた。
無いと思っていたのに。
どうやら、鎖でがんじからめにされていたらしい。
それを解いたのは、間違いなく目の前にいる女性。
これは、確信が持てる。
「嬢は、ハルヒと仲が良いんだな。」
「えぇ・・・・まぁ・・・・・。」
ハルヒと話している時と、明らかに違う反応。
嫌がっているのか。
それとも、怒っているのか。
頼むから。
頼むから、そんな態度をとらないでくれ。
そう思った、次の瞬間だった。
「好きだ。」
自然に、出た言葉。
俺の口から、出て来た台詞。
慌てて口を押さえても、時は遅く。
既に、嬢の耳に届いているだろう。
俺じゃ、ない。
本当に、どうしたんだ。
「・・・・・済まない。忘れて・・・くれないか?」
嬢の前だと、変になる。
何時もの自分と、違う自分になっている。
その変化に戸惑うが、何故か・・・・心地よかった。
「忘れて・・・・宜しいのですね・・・?」
「いや・・・・・前言撤回・・・・だな。」
俺は、自分に対して笑った。
何だ・・・・・こんなモノだったのか。
答えは、案外簡単で。
後は、自分が認めるか認めないか・・・・・それだげった。
きっと、俺は認めたくなかったんだ。
俺は、無くそうとしていた。
これは、必要ないと思っていた。
潰してしまえば、修復出来ないと思っていた。
だが・・・・・違ったんだ。
「俺は、貴女が好きだ。」
愛情。
この感情は、間違いなく俺の中で生き続けていた。