惚れたが、最
期
人間、誰にも一度は、間違いを犯すことがある筈だ。
犯した事がない奴なんて、世界中を捜したって、中々見つからないんじゃないだろうか。
見つかったら、俺は奇跡と思ってやろう。
「だから、失敗しただけよ。」
「そうか。」
は、眉間に皺を寄せた。
俺の反応に、納得がいかないのか。
それとも、まだ怒りが治まらないせいなのか。
「そろそろ、怒るのは止めた方がいい。」
「貴方に、指図されたくないわね。」
「俺にしたら、貴女の美しい顔が歪むのは、見たくないですね。」
俺がそう言うと、彼女は、ますます嫌な顔をする。
何処が、気に入らないのだろうか。
俺としては、もっと仲良くしたい。
そう考えて、こうして毎日の様に、彼女と一緒にいるのに。
“惚れたら、最期になるでしょう?”
そう言って、俺を好きになろうとはしない。
・・・・・何となく、漢字が可笑しいとは思うが。
それは、俺の気のせいなのだろうか。
「気のせいよ。」
彼女は、尋ねた俺に、笑顔でそう言った。
あぁ、そうか。
俺の、気のせいだったのか。
俺が、勘違いをしていただけか。
「・・・・・しかし、そろそろ好きになって欲しいものだな。」
「あら、どうしてかしら。」
「俺が、貴女を好きだから。」
あぁ、自分勝手だ。
自分の感情を、彼女に・・・・・に押し付けているのは、分かっている。
だが・・・・・。
「この俺が、捕まえたからには・・・・貴女は、逃げる事は不可能だ。」
だから、俺を好きになれば良い。
俺だけを、見つめていれば、それで構わない。
他の人間なんか、どうだって良い。
俺の邪魔をするならば、捻り潰す。
「俺は・・・・・絶対に、逃がしはしない。」
「・・・・・・・・・・馬鹿ね。」
「何とでも。貴女が、俺のモノだけになるのならば、俺は馬鹿にだってなりますよ。」
本当に、馬鹿だと思う。
この、俺が。
鳳鏡夜が。
一人の女に、感情で動かされているなんて。
あぁ、馬鹿げている。
本来、俺が動かす筈だったのに・・・・・。
(ふ・・・・・まぁ、一生に一度、あるかないか・・・だな。)
今は、まだ。
この理性は、保っている。
この状態を、何とか保持している。
だが、いつかは・・・・制御不能になるに違いない。
その時は。
その時の、俺は。
どんな行動に・・・・出てしまうのだろうか。
「出来れば・・・・・無理矢理は避けたいんだがな。」
「何を急に、言い出すの。」
「いや、何でもありませんよ。嬢。」
「あら、そう。」
今は・・・・・今は、まだ。
俺は、どうにか平常心を保っていられる。
自分で、自分を抑える事が、可能だ。
「では、また来ますよ。貴女だけに逢う為に・・・・・。」
そろそろ、部活に行かなければならない。
名残惜しいが、諦めるしか、ないだろう。
俺は、彼女の美しい髪に口付け、立ち上がる。
今度は、もっと永くいられる様にと、願いを込めて。
「・・・・・・だから、惚れたら最期・・・と言ったのよ・・・。」
“悔しいから、今は教えてあげないわ。”
が、そう呟いたのは・・・・俺が去った、後だった。
その事実に気付くのは、まだ先になる事を、この時の俺は、知らない・・・・・。