ナク事を無くさなくても、
「気に入らない。」
「何がです?」
「気にしないで。」
「クフフ。そう言われると、余計に気になりますね。」
髪に触れる。
彼女の、綺麗な髪に。
大好きな彼女を、後ろから抱き締め。
その彼女の、髪に触れる。
今、僕達は部屋に二人きり。
邪魔するモノは、誰一人として、見当たらない。
そんな空間が、何よりも好きで、大好きで仕方がない。
「骸は、泣かないのよ。」
「はい?」
「私は、貴方が泣いた所を見た事がないわ・・・・・。」
「僕が泣いた所を・・・・見たい、と?」
それは、困る。
とても、困ってしまう。
僕が泣かなかったのは、哀しい事が全く無かったから。
僕が泣かなかったのは、大事な物を失った事が無いから。
だから、泣かないし・・・・泣きたいとも思わない。
「どうしたら、泣くのかしらね。」
「・・・・・・・・知りませんよ。そんな事。それよりも・・・僕の事だけを考えて下さい。そんな“泣く”“泣かない”なんて、どうでもいい。」
どうでもいい。
彼女・・・・・には、僕の事だけを考えていて欲しい。
僕が、“泣く”“泣かない”の議論なんてしなくていい。
しなくて良いから、僕だけを感じ、想っていて貰いたい。
あぁ、何て自分勝手。
あぁ、何て独占欲が強い自分。
これを“愛”と呼んでしまって良いのだろうか。
時折、自分自身に尋ねてみる。
しかし、何度尋ねても、答えは同じ。
同じとは分かっていても、尋ねずにはいられない。
「は、僕を見ていれば良いんですよ。もっともっと・・・・・僕を愛して。そう・・・これでもかって位に。」
「我が儘ね。骸は、やっぱり偽紳士?それとも・・・・・本物の紳士かしらね。」
「さぁ・・・・・。ですが、紳士も時には我が儘になるものです。人間は、感情を抑え過ぎれば何れ、爆発しませんとやっていけませんよ。」
優しく笑い、彼女の白く美しい手に、口付ける。
この部屋は、少し寒かったのだろうか・・・・・彼女の肌は、少しひんやりとしていた。
「寒い・・・・ですか?」
「え?あぁ・・・・大丈夫よ。骸が、暖めてくれるのでしょう?寒かったら、寒いと言うわ。」
「クフフ・・・・・全身全霊。僕の愛の全てで、貴女を暖めて差し上げましょう。」
「・・・・・・・・・・・骸。」
「何でしょう?」
「私は、まだ寒いなんて言っていないわ。」
「クフフ・・・・そうでしたか?僕には、すぐに暖めて欲しいと言っている様に聞こえたのですが?」
「ハッキリ言ってあげるわよ。それは、貴方の幻聴。」
「そうですか。ですが・・・・・。僕は、もう熱くて仕方がないんです。これを鎮めるには・・・・・貴女が必要なんですよ。」
そう、熱くて仕方がない。
自分で鎮めるには、熱すぎる。
こんなに熱い感情を、どうやって一人で鎮めろというのだろう。
、貴女は・・・・・手伝ってくれますよね?
まぁ・・・・・・嫌だと言っても、手伝っていただきますよ?クフフ・・・・・・。