“仕方ない”とあの時君は、言ったけれど。









その時の君の笑顔は、諦めきっていた様な・・・その事実が、前々から解りきっていた様な・・・
今にも泣いてしまうんじゃないかって位、曖昧な表情だったと俺は感じた。









































だって、事実は覆せないと知っているから















































「やっぱり・・・・・・ね。」






















彼女は、泣かなかった。








彼女は、喚かなかった。








彼女は、叫ばなかった。








彼女は、責めなかった。








彼女は、憎まなかった。








彼女は、恨むことすらしようとしなかった。








既に、昔から気付いていたかのように。








ずっとずっと知っていて、解りきっていたかの様に、自然と言葉を発していた。
























哀しくないのだろうか。








自分の愛しい人が、他の女を撰んだというのに。























憎みたくならないのだろうか。








長年傍にいた自分じゃなくて、他の女を選択したのに。

















































は、凄いと思う。








何でもかんでも、最後には





“要するに、此が答えだと言うことよ。ま、分かって良かったわ”





という台詞で終わりにしてしまう。






















ジ・エンド。








勝手に、一人で完結に結び付けてしまう。








でもそれは、本当に良い事なんだろうか?








勝手に終了してしまって・・・・・じゃあ、相手の意思は?








君は、聞き入れないで耳を塞ぐというの?










「ねぇ、千種。骸は、彼女を撰んだ。彼女と夢の中で出逢い、彼女を選択した。

その事実について、私にどう責めろというの?責めたって、何もないのよ。

現実・事実を覆す事なんて、そうそう出来ない。そんな事に無駄な労力使うよりも、

すんなりあっさりきっぱり受け入れてしまった方が楽で良いと私は思うわ。」







「そんなものなのかな・・・・俺には、分からない。」





















泣いたって、良いんじゃないのだろうか。








君が泣いても、誰も責める人はいないのだから。








ねぇ、強がることはないんじゃないかな?








君だって、普通の女の子だろ・・・・・・?































「千種、貴方は優しいのね。でも、悲しくないのになぜ泣く必要があるの?」










君は、強がっている。








だから、泣いた方が良いんだ。








面倒だとしても、泣きなよ。








そう思う俺は、一体何を考えているのだろう。
































骸様は・・・・・・・君を必要としている。








きっとあの人は、無しで生きていけなくなってしまったに違いない。








誰だって、見れば分かる。








骸様の優しい笑顔。








俺たちにさえ向けたことの無い、温かく優しい瞳。








君がいれば、幸せになり・・・・君と逢えない日は、寂しく不安になる。








あんな感情をあの人に与えたのは紛れもなく君だ。








誰にも、入り込むことが出来ない関係。








強く強く結ばれた、絆。








きっと、を選べなかった理由があるんじゃないのだろうか。








俺は、そう思う。










「だから・・・・・骸様の傍にいて欲しい。が、骸様の総てだから。」







「千種は、本当に優しいのね。」










“本当に、優しい”





と二度は言い、一人頷き、納得していた。








俺は、優しくなんか無い。








それは、自分自身が一番良く知っている。








だから、俺に優しいなんて言わないで。








優しいのは、骸様だ。









俺達に、居場所を与えてくれた人なんだから・・・・・・・・。




















































“千種は、優しいわよ。自分の事より、人の事を先に考える。でも・・・・・千種。”























は、一人また頷いてから、俺に向かってこう言ったんだ。





























































「でも、私は、骸の傍にいる事は出来ない。」


























































嘘だと思った。








俺の耳がおかしくなって、幻聴が聞こえたんじゃないかと思った。








だから、聞き返してみたけれど、結局同じ答えが返ってきただけだった。






















は、もう骸様の傍にはいるつもりはないと言った。























戻るつもりは、ない。























きっときっと、二人の間に愛はいつの間にか、存在しなくなっていたのだろう。























これが、事実。






















そうだとしたら、私はその事実を受け入れようと思う。























あんなに愛していた筈なのに・・・・・あっという間に、感情は亡くなってしまうのね。























ねぇ、千種。























骸に伝えておいて欲しいのよ。























直接言えない私を、狡いと言わないでね?






















此れは、御互い様だわ。






















骸だって、何度も狡いことをしたのだから。























だから・・・・・最後くらい、狡さを使わせて。










































































「千種・・・・・何故、がいないんですか?
もしかして、犬がまた彼女に買い物を命令したと?貴方、何も言わなかったのですか?」







「骸様・・・・・・・。」








「全く・・・・・。あぁ、そうでした。今日は、にプレゼントを持ってきたんですよ。
彼女に良く似合うと思ったものですから・・・・・。」







「そう、ですか・・・・・・・。」

























何て、言えば良いのだろう。








は、もう来ないと言うのに、こんなに嬉しそうな表情をしている骸様に。








君に似合うだろうと思い、買ってきた首飾りを見ながら、来ない君を待っている骸様に。








本当に、君は残酷だ。








本当に、君は狡い人だ。








この俺に、骸様の笑顔を消せと命令するなんて。








何て、切り出せば良い?









どうやったら、傷付けるのを最小限で食い止められる?







俺には、その術を知ることは出来ない。








なら、やはりそのままを伝えてしまうのが一番理解できるだろうか?



















「千種、どうしたんです?元気がありませんね・・・・・あぁ、眠いのですか?
クフフ・・・・寝たいなら寝なさい。僕は、を待っていますから。」







「・・・・・・・は・・・・来ませんよ。いくら待っても。一生、待ち続けても。
彼女は、この場所には二度と来ないだろうと言って、骸様が来る数分前に立ち去りました。」







「何を・・・・・冗談でしょう?千種。が、もう来ない?そんな馬鹿な・・・彼女は、僕の恋人で僕は「何と言おうと、来ないものは、来ないんです。は・・・・・・は・・・・。」
































































“悪いと思うわよ。これに、偽りはない。でも頼めるのは・・・・・貴方以外に存在しない。”












、本当に骸様と別れるつもり?骸様は君を・・・・・。”












“千種。此れは、事実なの。骸が受け入れようが、受け入れまいが・・・・・・事実よ。”












“やり直せば・・・・良いじゃないか。”












“馬鹿ね・・・・・・そう思ったけれど、駄目。気付くのが遅すぎた。”
























あの時のは、少しだけ・・・・・・・・少しだけ、涙で目が潤んでいた。








あぁ、君の涙を見るのは、此れが最初で最期なのかもしれない。








骸様にさえ、涙を見せなかった、君。








結局、強がっていただけなんじゃないのか?








最後の最後で見せるなんて・・・・・・しかも、骸様には見せずに去って行くなんて、
やはり君は、狡い人だ。








でも、俺はそんな狡い君から、用件を引き受けた。








引き受けたからには、最後まで言うのが当然だろう。








だから、俺は言います。








骸様、これが・・・・・・・これが、彼女の言った、貴方へ伝える最後の言葉です。















































































は、もう貴方を愛してはいない。」









































































言ってしまった。








遂に、言いたくないことまで言ってしまった。








俺が言葉を発した瞬間、骸様の瞳から生気が喪われていくのが、分かった。








骸様、どうか受け入れてください。








彼女は、既に受け入れた。








貴方と離れる事を決意し、狡くはあるが、貴方に別れを告げた。








此れが、事実です。








此れが、現実です。







どうか、逃げずに受け入れてください。








俺には、こうするしかなかった。








俺を、憎んだって構わない。








彼女を、引き止めることが出来ずに、別れを間接的に伝える事を選択した俺を。








俺は、知っている。












貴方には彼女しかいない事を。








俺には、手に取るように分かります。








どんなに、大事だったのか。








どんなに、幸せな時間を過ごして来たのか。
















でも、もう遅いんです。
















彼女は帰ってこないんです。
















もう、遅いんです。















彼女の心は、貴方から離れてしまった。
















さぁ、誰を恨みますか?















さぁ、どうやってこれから生きていくのですか?
















俺には、分からない。
















俺には、解らない。
































































もう“愛”は存在しないの。















どうやっても、私の中に・・・・・“六道骸”の存在を探し出す事は不可能だわ。














だから、今日お別れを言ってもらわなければならない。















きっと、骸と私は・・・・・・・こうなるのが、必然だったの。














あぁ・・・・・・六道と呼ぶ方が良いわね。















次に逢った時は・・・・・・・殺したければ、殺してもらって構わない。














私は、喜んで屍になるから。














だから、サヨナラ。






























































静まり返った部屋の中、聞こえてきたのは、

骸様の手から首飾りが滑り落ちた音と、哀しく流れ続ける涙の音。