“骸が、好き”
あの時、君は僕にそう言ったじゃないか。
“私と骸は、死んでも生まれ変わっても・・・・・離れられない関係かも知れないわね”
その言葉が、僕にとってどれだけ大事なのか・・・・・君は、解らなかったと言うのですか?
“時、既に遅し”果たして、そうなのだろうか
が、僕の目の前から去ってしまった。
信じたくないけれど、どうやら此れが今の現実みたいで。
これで僕は、また独り・・・・孤独に逆戻りになってしまった。
別に、を選びたくなかった訳じゃない。
選ぶことは、幾らでも出来た。
なら、何故選ばなかった?
選ばなかったんじゃない・・・・・選べなかっただけだ。
選んでしまえば、彼女を危険な目に合わせる事になる。
そんな事になってしまったら・・・・・・僕は、彼女に申し訳ない気持ちで一杯になって、
後ろめたい気持ちのままで、ずっとずっと生きていく事になるだろう。
は、きっとそんな事気にしないのだろう。
でも僕は、そんな優しい君に甘える事は出来ないんですよ。
何故なら、既に踏み入れさせてはいけない領域に、
僕の身勝手な気持ちの為だけに、君を招いてしまったから。
その領域に招いてしまった僕は、酷く後悔し、自己嫌悪に陥った。
もう二度と、あんな事はしない。
もう二度と、あんな事はしたくない。
だから誓ったのに。
その誓いのせいで、は去ったと?
僕の事を、愛せなくなってしまったと?
本当に、そうなのだろうか。
本当に、それだけなのだろうか。
常に、本音を言わないだから。
恋人の・・・・・否、恋人だった僕にでさえ、なかなか本音を言わなかった君だから。
きっと何かを隠している。
きっと何か、心の奥へと押し込んで見えないようにしているのだろう。
あぁ・・・・・・・。
僕は、貴女に逢いたくて逢いたくて逢いたくて・・・・・今すぐにでも逢えるのならば、逢って話がしたい。
君が、僕を愛していないと言っても。
僕は、君を愛している。
君が、恨んでも良いと言っても。
僕は、憎むことすら出来ていない。
どうやって、憎めと?
どうやって、再会したいと思っている貴女に会った時に、殺せと?
貴女は、そう言うんですか?
貴女は、それを望むと言うのですか?
僕には、出来ない。
僕には、出来ない。
「この僕に・・・・・出来る筈ないじゃないですか・・・・。」
泣いてばかりはいられないと、分かっている。
僕が、こちらの世界に居られるのは、ほんの僅かな時間だけだ。
時間が、無い。
そうだ・・・・・こうしている間にも、彼女が違う男の場所へ行ってしまうかも知れないと言うのに。
此処で、立ち止まっていて良いのか?
こんな場所で・・・・・・・・。
本当に、何もしないままで良いのだろうか?
走った。
無我夢中で、走り続けた。
を捜し続け、彼女が居そうな場所を手当たり次第、行ってみた。
僕との、思い出の場所。
君と出逢い、恋に落ちて、幸せだったあの日々を思い出した途端、涙が溢れ出してきた。
あんなに、幸せだったのに。
築き上げるのは大変だというのに・・・・・・崩れるのは、こんなに簡単なんだ。
“ねぇ、骸”
“はい?どうかしましたか?”
“人間は、誰かが傍に居ないと生きていけないのよ”
“クフフ・・・・・では、僕はが居ないと生きていけないという事になりますね”
“当然よ。私だって、きっと骸がいなければ生きていけないわ”
“。『きっと』は、余分だと僕は思いますが?”
“あぁ・・・・・・そうね”
あの時、は余り良い反応をしなかった。
何と言うか・・・・・そんな事はないと否定をしたい様な態度だった。
まさか、あの時から分かっていたというのだろうか?
僕との間に、愛が亡くなってしまう事を。
そんな馬鹿な。
予言者でもないのに、分かる筈がない。
は、普通の・・・・特殊な能力を持っていない女性じゃないか。
きっときっと、僕の勘違いだろう。
そう思いながら、走っていたその時。
見慣れた姿を、喫茶店の窓際の席に発見した。
久々に、彼女の姿を見た。
貴女は、変わっていない。
僕が、会いたかった愛しい人。
見つけたからには、戸惑う事はしない。
「やっと・・・・・見つけましたよ。」
僕は、喫茶店に入り彼女がいる席へと向かい話し掛けた。
「六道じゃないの。あぁ・・・・・私を殺しに来たのかしら?」
は、言った。
以前、僕に見せていた美しい微笑みを浮かべたまま。
僕が、殺しに来たと本気で思っているんですか?
僕は、貴女を殺すなんて出来ないというのに。
だから、其れは絶対に無いとに告げた。
するとは、普通に“そう”と、返事をした。
「少し、話をしませんか?」
「話?今更、貴方と私の間でどんな会話をしろと?思い出話に華を咲かそうとでも言いたいの?
馬鹿な事を言わないで。六道と、会話は成り立たないわ。」
「・・・・・僕は「貴方は、千種が伝えた言葉だけでは納得がいかないと言いにきたのね。」
“全く・・・・千種に、捜さない様に言ってと伝えたのに。言わなかったみたいね”
は、不機嫌な表情になり、窓の外の景色に視線を向ける。
やがて、少しは落ち着いたのか、僕に座るように勧めてきた。
少しは、話をしてくれる気になったのだろうか?
なんて、淡い期待をしてはいけないのだろうか。
僕としては、期待したくて仕方が無いのですが・・・・・・ね。
「率直に言うわね。私は、貴方を愛していないのよ。」
「ですが、嫌いではないんですよね?ならば、やり直しだって可能な筈です。」
「ねぇ、六道。貴方は、本当にそう思うの?本当に、やり直せると、考えているの?知っている?
一度崩れてしまったモノをまた積み直すのは、大変な事なの。貴方、馬鹿じゃないんだから分かるわよね?私の中に、貴方は居ない。存在しないのよ。」
「僕達なら、不可能がないと思っています。今まで、愛し合ってきた僕達なら、修復する事は可能です。」
「それは、過去。現実は、もう愛し合っていない。」
現実を、受け入れろ。
現実を、受け入れろ。
現実を、受け入れれば良い。
時は既に遅かったと、言うのだろうか。
「彼女を選んだから・・・・・・君は、僕から離れたんですか?」
「あぁ・・・・・其れ以外に、理由かあるかどうかを知りたいのね?あるわよ。特別に、一つだけ教えてあげましょうか?」
彼女は、脚を組み直し・・・・・・肘をテーブルに乗せて、こう言った。
“貴方。一度も、私に逢いに来てくれなかったわよね。知っていた?一度も、無いのよ。たったの一度もね。
私は、これで解った。要するに、貴方と私は繋がっていない。既に脆くなって、切れてしまったのね。
其れを知ったから・・・・・だから私は、終わりにしようと思ったの。良いじゃないの。貴方には、姿を貸してくれる彼女がいる。それが、貴方の支えになればそれで。”
「骸様・・・・・。」
「ん?あぁ・・・・・千種ですか。クフフ・・・・どうしました?」
「彼女に、逢いに行ったんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「言ったでしょう?かの「千種。僕はね・・・・生まれて初めてだったんですよ。誰かを想うのは。分かりますか?僕は、一生に一度と言える恋をしたんですよ?」
それが、こんな形になってしまうなんて。
誰が、想像しましたか?
誰が、予想できたんでしょうね。
僕には、出来ませんでしたよ。
僕には、との幸せな毎日しか見えていなかった。
「あの頃に・・・・・戻りたい。」
そう、戻りたい。
戻ってくれれば、修正が利くんじゃないかと思うから。
だから、戻してください。
誰だって良い。誰でも構わないから、戻してくれないだろうか?
ねぇ、愛しい人。
もう切れてしまったなんて言わないで。
君と僕は、こんなにも強い絆で繋がっているのだから。
解るでしょう?感じるでしょう?
僕は、貴方を愛している。
「支度は?」
「大丈夫よ。既に出来ているわ。」
「では、行くぞ。俺達は、お前を歓迎する。」
「それはどうも。」
何が、歓迎するよ。
人を散々脅しておきながら、そんな言葉が良く出てくるものだ。
反吐が出る。
何だったら、今すぐ殺してしまいたい。
そう思いながらも、私は男の後を付いていく。
実は、彼には言わなかった。
否、言わなかったんじゃなく・・・・・・・言う事が、出来なかった。
御免なさいね。こんなに、弱い人間で。
今日私は、大好きな貴方に嘘を付きました。
愛していないなんて、真っ赤な嘘。
私は、貴方を愛している。
私は、貴方を愛している。
でも、もうそれは告げることは出来ない。
傷付けて、御免なさい。
勝手に、決めてしまって御免なさい。
こんな私を、ユルシテとは言わない。
言わない代わりに、殺して欲しい。
殺して欲しかったのに・・・・・・・・・・。
「やっぱり、貴方は馬鹿だわ。」
真夜中、深夜零時。
二つの靴音が、静かに遠ざかっていった。
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