「バイトしたい。」
俺の彼女が、そういった。
理由。
「バイト?」
俺は、聞き間違えたんじゃないかと、に聞き返した。
「そ、バイト。」
バイトのぅ・・・・・。
それは、困った相談じゃ。
バイトなんかしたら、適が増える。
菌が、にくっつくじゃろ。
「駄目。」
俺は、了承する気はない。
そんな、俺の発言に、はムッとした。
どうやら、納得いっていないご様子で。
「何でさ。」
「野郎共が、に群がるからじゃ。」
何で、分からないんじゃろ。
周りが、お前をどんな目で見ているか。
俺は、耐えられない。
そんなに、度量のある男じゃないんじゃから。
「・・・・・・雅治。やらせろ。」
「駄目じゃ。」
「ケチ。」
「あ〜・・・・そうですか。」
「馬鹿。」
「何とでも、言ってくれ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・別れる。」
「別に・・・・・・・・・・・・・・・・・って、えぇ!!!!????」
わ、別れる?
が、俺と別れる!?
冗談じゃなか。
が、俺の側にいなければ意味がない。
そう、俺が、生きている意味がないんじゃ。
そんなの、嫌。
だけど・・・・が、バイトするのも嫌。
どっちも、嫌。
俺って・・・・我が儘?
「兎に角。バイトはする。反対するなら、別れて構わん。」
「・・・・・・・・・・・。」
胸が、痛い。
なんで、は”別れる”なんて言葉が簡単に言えるんじゃ・・・・。
俺は、言えない。
それに、そんな事、考えた事もない。
俺って、にとって・・・直ぐに捨てられるような存在?
遊びなんか?
その日から、は俺と一緒に帰ってはくれなくなった。
なんでも、バイトが忙しいらしい。
”どこで、やってんの?”
”どんな、バイトなの?”
と、聞いてもは教えてくれん。
柳に、聞いてみても無理じゃった。
なんでも、”俺の力で、の行動が把握できるなら、探偵なんぞ要らない。”的な事を言っていた。
「そうなんかのぅ・・・・・。」
もう、一ヶ月になるのに、は俺の元には戻ってこない。
バイトに、彼女を盗られるなんて、情けない。
男として、失格か?
しかし、別れられるより、我慢した方が良い。
俺は、そう思い、我慢に我慢を重ねた。
「雅治。」
急に、誰かに呼ばれた。
それは、聞き覚えのある声。
俺が、名前を呼んで欲しかった人。
「・・・・・・・・・。」
俺は、の姿を見つけると、涙が出そうになった。
やっと、帰ってきてくれた。
そう直感した。
「ほら、プレゼント。」
は、近付いて来るなり、恥ずかしそうにしながら俺に小さな包みを渡してくれた。
「・・・・・・プレゼント?」
「そうだよ。いつも、お世話になっているからな。それに、お前欲しいって言ってただろ?」
欲しいと言っていた物。
そう、あれは、とデートだった日。
『このペアリング。良いのぅ。』
俺は、宝石店のショウウィンドウに飾られていたペアリングを見つけた。
シンプルだが、何故だかそれにばかり目がいってしまったんだ。
_________とお揃いのリングを付けたい。
そう思ったのは、良いんだが。
値段が高い。
高校生の小遣いでは・・・・難しい。
『なんだよ。雅治は、指輪が欲しいのか?』
『と、お揃いのリングじゃ。俺は、欲しいんだがの・・・。』
結局、その日は、諦めた。
以後、その宝石店を通る度に、指輪をじっと眺めていたのを覚えている。
「よく、覚えてたの。」
「ふん・・・・覚えていてやったんだ。有り難く思って毎日付けろよ?」
は、顔を赤くしながら、そっぽ向いた。
そんな、彼女の反応が、可愛い。
俺は、愛しく感じる。
「だが、なら・・・金は余る程もっとるじゃろ。なんでバイトなんか・・・。」
そうだ、の家なら・・・こんなの簡単に手に入る。
それ位、金持っているのに・・・・・・・。
「馬鹿。そんなんじゃ、有難味がないだろ?それに、私がそうしたかったんだ。」
嬉しかった。
何でだか、説明は出来ないけれど。
「大事にする・・・・。」
「そうしてくれ。」
「だから・・・・・・・・・・。」
「だから、なんだ?」
「も付けて?」
にも、付けて貰いたい。
男除け代わりに。
勿論、それが第一の理由じゃないけれど。
「・・・・・・・・・・分かった。」
「有り難う。」
俺は、礼を言った。
そうしたら、は”礼なんか要らない”と、優しく微笑んでくれた。
彼女が、バイトしたかった理由。
やっと、分かった。
今度は、俺がに何かしてやる番じゃ。
さて、愛しい彼女の為に、なにをしよう・・・・・・。