どうする事も、不可能だから。
真偽
「だからさ、そろそろ別れないか?」
放課後の、誰もいない教室。
突然、彼女に言われた言葉。
それは、嬉しい言葉ではなく、辛く・・・悲しい言葉だった。
「どうして・・・・って、聞いても構わん?」
「飽きた。お前といるの。」
飽きた?
今まで、隣で嬉しそうに笑っていたのに。
何度も、“好きだ”って言ってくれていたのに。
は、飽きたと言った。
そんな簡単に崩れてしまう様な、関係だったのだろうか。
もっと、強い絆で結ばれていたと思ったのは、勘違いだった?
俺だけが、そう感じていただけだったのだろうか。
全ては、幻で。
夢の中みたいな、モノでしかなかったのだろうか。
「で?答えは??」
は、俺に答えを求めて来た。
そう、彼女は、“別れてもいい”という了承の言葉を待っている。
だが・・・・・・。
「そんなの、却下に決まっとる。」
そうだ。了承する筈がない。
やっと、手に入れたんだ。
何年も、想い続けて、実った恋。
それを、簡単に手放せるはずがない。
が、別れたいと言っていても、俺は、彼女を離さない。
「・・・・・・そうか。それは、残念だ。」
「俺は、諦めの良い男じゃなかよ。、お前だって、知っとるじゃろ?」
俺は、を見つめる。
は、俺を見ない。
そう、“別れよう”と“飽きた”と言った辺りから、全く。
俺は、分かっている。
以前にも、こんなやり取りが多々あった。
は、どうしてこんなにも、“別れたい”と言うのだろうか。
「、俺が側にいるのは・・あかんのかの?
どうしても、駄目?お前の隣に、俺の居場所は、ない?
それとも、本当に、心の底から、俺を要らないと思って言ってる?」
「違う。そんなんじゃ・・・ない。お前、誰にでも優しいから。不安になるんだよ。
もしかしたら、他の女を好きになるんじゃないかって。あ!!今笑ったな!!!笑うな!私は、本気なんだぞ!」
の言葉に、思わず笑ってしまった。
それは、苦笑が入り交じっていたけれど。
笑ったら、彼女は、顔を真っ赤にして、俺を睨んで来た。
「悪い。つい・・・な。」
「何だよ。“つい”って。お前は、振られた事がないから、笑えるんだ。私なんか、振られた事があるんだぞ?その時の台詞がなんだと思う?“飽きた”だ。
要するに、遊ばれていたと言う訳だ。私は、本気だったのに。向こうは、遊びで付き合っていた訳だ。
以来、私は、人の言葉を信用するのを止めた。馬鹿馬鹿しいだろ?なぁ、馬鹿を見るのは、もう御免なんだよ。懲り懲りだ。」
そうだった。
は、振られたんだ。
大好きだった、男に。
初めて、本気になれた、人物に。
俺は、とは全く逆の立場にいた。
そう、女達を飽きては捨て、飽きては捨てを繰り返していた日々。
だから、の気持ちなんて分からなかった。
けれど、今は分かる。
俺は、に捨てられたらどうなるのか・・・・・。
きっと、生きている心地がしないだろう。
それから先、どうなるかは分からないけれど。
「なぁ・・・・仁王。」
「雅治。」
「・・・・・・・・雅治。人の、真偽を見分けるこつは、ないんだろうか。」
は、壁に寄り掛かる。
生きている事に、疲れた様に。
一人で、立つ事を、拒否したかの様に。
真偽を、見分ける。
そんなの、難しい。
人間は、全員が同じ考えを持っている訳じゃないから。
一人一人、違うから。
真偽なんて、分からない。
結局は、その人の、口から紡がれる言葉を信じるか、表情を読み取って、解釈するか。
その位しか、出来ない。
「私は、あったら知りたいんだよ。どうしても。」
「ない。」
俺は、即答する。
そう、ない。ないんだ。
信じる、信じないは、相手次第。
人の言葉を、どう解釈するかも、その言葉を受け取った人次第。
自分が、どうこう言ったところで、何もならない。
だから、。
俺は、お前が信じるまで、何度でも言う。
諦めないで。お前を、手放す事を、せずに。
いつか、きっと分かってくれる。
時間が掛かってもいい。
全く、構わないから。
愛しい人よ、気付いて______。
「。俺は、お前を愛してる。」
俺は、笑顔を浮かべ、彼女に言った。
夕日が照らす、教室で、彼女の頬に、一筋の涙が伝っていた・・・・・。