真実を、教えて
「おや、仁王君。さんの所に行ったんじゃないんですか?」
「・・・・・・・行った。」
「・・・・・もしかして、教室に居なかったんですか?さん。」
「煩い。」
“黙ってろ”と柳生を睨み付けたら、肩をすくめ、教室を出ていってしまった。
今は、誰とも話をしたくない。
だから、放っておいてくれないだろうか。
頼むから、この場所に俺が居ないかのような態度を取っていて欲しい。
そう願いながら、自分の席に着き、顔を伏せた。
(・・・・・・最悪じゃ。)
あの光景を、忘れてしまいたい。
いっその事、全て無かったことにして、やり直したい。
あれは、無かった。
俺は、あの場所にいなかった。
あの会話は、俺が行き着くまでに終わっていた。
そうだと良かったのに。
どうしてそうじゃないんだ?
これは、以前の俺への罰?
まだ、代償が必要だっていうのか?
冗談じゃない・・・・・本当に。
もう十分すぎるほど、罰は受けた筈なのに。
一体、何れだけの代償を払えば気が済むんだよ・・・・・。
『・・・・は・・・と。』
三限目と四限目の間にある、短い休み時間。俺は、昼休みまで待ちきれずに、がいる二年の教室へと足を運んだ。
彼女の声が、聞きたくて。
彼女の顔が、どうしても見たくて。
我慢が出来なかった。
『確か・・・・このクラスだったかのぅ。』
クラスの出入り口で脚を止め、の姿を捜す。
俺の愛しい恋人は、何処に居るんだろうか。
捜し始めて間もなく、彼女の後ろ姿を発見したから、声を掛けようとしたが・・・・・言葉が、出なくなる様な会話が聞こえてきた。
『さんさぁ、仁王先輩の何処を好きになったんすか?話によると、初対面で指環嵌められて、恋人にされたんすよねぇ?』
この声には、聞き覚えがある。
部活時によく聞く、赤也の声だ。
アイツ・・・・・と、同じクラスだったのか?
そうか・・・・・何時もは、の所に行っているから、気付かなかったんだ。
あの馬鹿、に何て質問をしてるんだ。
いや、まぁ・・・・・知りたい事は、知りたい話題でもあるが・・・・。
から、赤也の方に視線を向けてみたら、奴は目だけ俺の方に向けて、面白そうに笑っていた。
赤也に優位に立たれるってのは、腹立たしいな。
他の奴等に優位に立たれても、それはそれで嫌だけど・・・・・。
“後で覚えてろよ。”
そう心の中で呟きながら、に気付かれないように、姿を隠した。
そして、が赤也の疑問に答える声が聞こえてくる―――――――――。
今思えば、辞めれば良かったんだ。
盗み聞きなんか、しなければ良かったんだ。
あんな言葉を、の口から聞くくらいだったら・・・・・。
『さぁ・・・・どうなのでしょう・・。』
「あー・・・・・・腹減ったのぅ。」
余りの空腹に、気が遠くなりそうだ。
人間、三日は食わなくて平気だとか・・・・・誰か言っていた様な気がしないでもない。
昼休み、俺はから逃げ続けていた。
どうしても、会うのが怖かったから。
きっと、今、会っても変な態度を取ってしまうだろう。
それならば、会わないように逃げ続けた方が良いに決まっている。
・・・・・・・それにしても、腹減った。
購買に何かを買いに行くか?
(俺の本音は、が作ってくれた弁当を食いたいけぇ・・・・。)
の、手作り弁当が食べたい。
何時も、早起きして作ってくれているであろう弁当を。
彼女は、俺の好物を既に知り尽くしているから、中身は何時も俺の好物(時々、苦手なのあるから正直大変な時もあるけれど)ばかりが詰まっている。
今日も、絶対に持ってきている筈。
そう考えると、かなりの罪悪感を覚えてしまう。
今頃、は自分を捜しているのだろうか?
二人分の、弁当を抱き抱え、ずっとずっと捜し続けているのだろうか?
それとも、捜すのを諦めて、一人寂しく食事をしているんだろうか。
「・・・・・・・・・・馬鹿か、俺は。」
自分の愛しい恋人に、寂しい思いさせるなんて、最低だ。
でも、会ってどうしたら良いんだ?
会うのが、怖い。
怖い・・・・・・けど・・・・。
「こんな場所で、一体何やってんすか?」
声がした。
今は、聞きたくない声が頭上から聞こえてきた。
嫌々顔を上げれば、そこには赤也の顔があった。
「彼女、泣いてますよ。」
「は?」
泣いている?
赤也は、今泣いているって言ったのか?
「泣いてるって・・・・がか?!何で!なして泣いておる!理由を教えろ!」
「ちょっ・・・・くる゛じぐで・・・・・っだー!!!首絞めないで下さいよ!死ぬじゃないっすか!」
「死ね。お前なんか、いっぺん死んでこい。元はと言えば、お前さんが変な事を聞くからじゃ・・・・・。」
あぁ・・・・・・思い出したら、ムカついてきた。
そうだ。元凶は、この馬鹿赤也だ。
赤也が、あんな質問さえしなければ、俺はから逃げる事もなく、苦しむ事もなく、彼女と二人で楽しい時が過ごせたのに・・・・・。
お前なんか、の所に行っていれば良かったんだ。
完全に腹が立ったから、一回殴ろうと襟首を掴んだら、赤也は“自分の彼女の元に早く行ったらどうっすか!”と真っ青な顔をして言った。
あぁ・・・・確か、泣いていたって言ったよな。
そうだ。こんな馬鹿を相手にしている暇なんか、俺にはないんだ。
早くの所に行ってやらないと、彼女は、ずっとずっと一人で泣き続けることになる。
そんなのは・・・・・駄目だ。
「今回は、許してやるから・・・・早く教えんしゃい。」
「!」
「っ・・・・え・・ぁ・・・ま、雅治。」
「泣いてたんだってな・・・・赤也の馬鹿に聞いた。」
「・・・・す、済みません。」
「が、謝る事なか。悪いのは、俺じゃ。」
そう、悪いのは俺。
から逃げていた、俺が悪いんだ。
俺、側にいるから・・・・・だから・・・。
「雅治に、嫌われたかと・・・・。」
「嫌う?」
「私と、もう居たくないのかと思「違う。それは、絶対にない。俺は、が好き。嫌いになんかならない・・・・嫌いになんか・・・。」
嫌いになんか、なれるもんか。
これから先だって、俺は嫌いになんかならない。
でも・・・・・・・。
「は、その・・・・・俺の事・・・どう思ってる?好きだったら・・・どんな所が好き?」
ヤバイ・・・・掌に、汗が凄い。
自分にとっての、最悪なパターンを想像しているから、尚更緊張してくる。
もしも、嫌いだと言われたら・・・・・どうする?
もしも、分からないと言われてしまったら、どうしたら良いんだろう。
もしも・・・・・もしも、という悪い言葉ばかりが浮かんでくる。
俺が質問してから、どの位時間が経ったのだろうか。
時間が経つのは、こんなにも遅くなるものだろうか。
は、俺に答えを伝えてはくれない。
「・・・・・・好きですよ。」
好きです。
貴方の優しさが。
貴方の笑顔が。
貴方の弱さが。
貴方が、テニスしている姿が。
私に、優しく話しかけてくれる声も。
キスをしてくれる時だって・・・・・・。
「・・・・・言い出したら、キリがないんです。好きすぎて、困ってしまいますね。切原君にも、聞かれたのですが・・・・・答えきれなかったので曖昧に返事をしてしまいました。」
「・・・・・・・・・・・。」
こういうのを、感無量というのだろうか。
嬉しいという言葉だけでは、物足りないような気がする。
否・・・・・失礼と言うべきなんだろうか?
が、俺の事を好きだと言ってくれた。
何処が好きか、言い切れないほど好きだと、言ってくれた。
あぁ、もう・・・・・顔を真っ赤にして、可愛すぎる。
「ハハッ・・・・・どうやら俺は、一人で勘違いをして、悲しんで、落ち込んでたって事かの。」
「・・・・・・何かあったのですか?」
「あぁ・・・・・こっちの話。気にせんでもいいよ。」
不思議そうに見つめているを、又しても可愛いと思いながら、彼女の頭を優しく撫でた。
先ずは、二人でお昼を食べよう。
そうしたら、ゆっくり二人で話をしたい。
「でも、昼飯の前に・・・・・・。」
大好きな君に、口付けを。