初めて話し掛けられた、あの日。
君と、出会って
鳳長太郎君。
放課後、帰ろうとしていた私に、突然話し掛けて来た人。
突然の事だったから、正直、驚いた。
驚いている私を、目の前にして、彼は、こう言った。
『俺の名前は、鳳長太郎です。貴女の名前は?』
(この人は、突然何を言い出すのか・・・・・・・・何だか、おかしな人。でも、悪い人ではなさそう。)
それが、彼に対する、第一印象。
けれど、話しはしたくなかった。
私は、あの時、恋人にフラれたばかりだったから。
誰とも、話しをしたくない。だから、誰も話し掛けて来ないで。
私は、友人のさえも、拒んだ。
慰めは、要らないの。必要ない。そんなのは、欲しくない。
貰った所で、何になるの?
慰めなんて、一時的なものじゃない。それならば、あってもなくても変わらない。
何も、変わるものは、ないの。
私が欲しいのは、そんなものじゃないから。
じゃあ、何が欲しい?
そう聞かれたら、私は迷わず、こういうと思う。
彼を、彼の心が欲しい。と。
彼は、私の全て。
私の人生そのもの、といっても過言じゃない。
だって、それ程までに、彼が好きだった。必要だった。
でも、もういない。
彼は、私が必要なくなった。
この傷は、誰にも癒すことは不可能じゃないのかって思った。
時間さえも、傷は癒やせない。
なのに・・・・・・・・・・・・・。
「え・・・・・・・み、見てたの?」
私は、鳳君と、喫茶店にいる。
何故かは、分からないけれど、話しをしたい気分になったから。
話しをし始めると、どうやら彼は、私が、雨の中泣いているのを見ていたらしい。
恥ずかしいことこの上ない。
あの時は、なんとも思わなかったけれど、思い出すと、かなり恥ずかしい。
「風邪は、引きませんでしたか?」
鳳君は、聞かなかった。
私が、何故あの場所で泣いていたのか。
どうして、聞かないのだろうか。ホッとした反面、聞いてもらいたかった自分がいる事に気付いた。
ねぇ、鳳君。
君は、一体あの日の私を見てどう思ったの?変な人だと思った?
あの雨の中、一人ずぶ濡れになっていた私をどう思いましたか?
話したら・・・・・・・・・どうなんだろう。いや、そんな事出来ない。
誰かと、哀しみを共有はしたくないし、そんなのできやしない。
この哀しみは、私だけのものだから。
彼は、優しい。
鳳君、君と出会って、私は、何かが変わるかもしれない。
もしかしたら、今日までの過去の私に、さよならを告げられるだろうか。
出来たとしたら、君に感謝をしようかと思う。
だって、私を、哀しみの殻から出してくれたのは、貴方なのだから。