「相変わらず・・・・・ね。」
貴女の瞳には
「やないか。どないしたん?」
「侑士に会いに来た、と言えば良いかしらね。」
彼女は、軽く笑う。
それは、少し意地悪な笑顔の様にも見える。
。
俺にとって、幼馴染み。
けれど今は、恋人同士。
高校に入って、一年。
今の今まで、隠して“仲の良い幼馴染み”として頑張ってきた。
そんな我慢を、長く出来る訳もなく。
一年の冬、俺はに自分の気持ちを告げた。
結果は・・・・・今を見れば分かる。
「はい、お弁当。侑士の好きなおかずを作って来たの。」
「流石、やなぁ・・・・感心するで。」
「あら、感謝はないの?」
“ないなら、これはあげない”
はそう言って、弁当箱を取り上げてしまった。
「感謝しとるで。毎日、ありがとな・・・・・。」
「宜しい。」
笑顔で、弁当箱を渡してくれる。
そんな彼女を見て、俺も笑顔になる。
俺にとって、は安らぎの場所。
この安らぎは、他の誰かが代理を務められるモノじゃない。
誰かにとって“この人”じゃなければならないのと同じ。
俺は、じゃなければ駄目なんだ。
「明日は、何処かに行ける?」
「ん?あぁ・・・・練習は休みやし、大丈夫や。」
「本当に?」
大人っぽいが、幼い表情になる。
そんな彼女は、物凄く可愛い。
大人びて、綺麗な。
幼い表情を見せる、可愛い。
どちらのも、愛しく思う。
きっと、跡部達に言ったら、馬鹿にされるかも知れない。
でも俺は、馬鹿にされたって構わない。
事実なのだから。
「の行きたい場所に、行こうな。」
俺達は、そう言って、お互いの小指を絡ませた・・・・・。
「本当に、相変わらずだわ。」
回想、終了。
今のは、不機嫌そのもの。
どうやら、視線が気に入らない・・・・・らしい。
男の視線。
女の視線。
行き交う人々。
店内での、視線。
それを感じ取り、不機嫌になっている。
「気に入らないわ。相変わらず、この視線は・・・・・。」
「気にしない方がえぇよ。そんなんしとったら、外になんか出られないやろ?」
「それは、私も分かっているわ。けれど、この感情はどうにも出来ないのよ・・・・・。」
なら、俺だけを見ていれば良いのに。
そうすれば、周りなんか気にならなくなるのに。
は、俺だけを見ていれば良い。
周りなんか、俺達には関係ないじゃないか。
駄目だ・・・・・・・これは、独占欲だ。
を恋人にした時から、増殖している黒い闇。
(全く・・・・この気持ちは、好きやないんやけどな・・・。)
好きじゃ、無い。
こんな、ドロドロとした気持ち悪い感情。
拭い去る事なんか、出来やしないんだ。
「侑士、行きましょうか。もう此処には用はないし。居ても仕方が無いでしょう。」
「あ、あぁ・・・・・せやな・・・。、次はどないする?」
我に返れば、は会計をする準備をしていた。
「は、出さんでえぇよ。俺が出すから・・・・。」
「でも、毎回出してるのはゆう・・・・「えぇんよ。」
の言葉を、遮る。
これは、俺の役目。
が、納得していないのは分かる。
でも、どうしても俺が出したかった。
「有り難う・・・・・。」
「構わんて。俺には、この位しかで「そんな事無い・・・っ・・・!!!」
が、俺の言葉を遮った。
彼女が遮るのは、これが初めての事。
そして、叫んだのも・・・・・初めてだった。
「私は・・・・侑士が、恋人で感謝してる。幼い時から、ずっとずっと好きだったから。
侑士が告白してくれて感謝してる。私からは、絶対に無理だって分かっていたから。それから・・・・。」
は、続ける。
店内だと、気にせずに。
周囲の人間の視線なんか、どうでも良いかの様に。
「私は・・・・・。」
は、俯く。
身体と声が、震えているのが感じとれた。
「今まで言えなかったんだけれど・・・・・。」
は、言った。
小さい声だったけれど。
俺には、十分過ぎる音量だった。
“有り難う。感謝してるよ・・・・・侑士・・・。”
嬉しかった。
泣きそうになってきた。
役に立っていないと思っていた、俺。
もしかしたら、負担かもしれないと思っていた、自分。
そんな自分に、は“有り難う、有り難う・・・・・。”と、言い続けている。
「、もうえぇよ・・・・俺こそ、ありがとな。」
感謝の意味を込め、の額や頬、そして・・・・・唇にキスを落としていく。
「・・・・・・・・・馬鹿。」
「ハハッ・・・・一度位、こういう場所でキスもえぇやろ。」
店内は、騒然としている。
まぁ、無理もないだろう。
「、行くで。」
伝票を持ち、俺はの手を握る。
さぁ、二人の時間はまだ沢山ある。
“次は、何処へ向かおうか”
そんな話しを交わしながら、俺達は外へと歩き出した。