同情が、欲しい訳やなかった。
君の居ない世
界
俺は、同情なんか、どうでもえぇんや。
そんなん、俺にとっては、迷惑でしかない。
可哀想 可哀想 可哀想。
そんなんばっか。
煩い。本当に。
お前等が、俺の何を分かっているんや。
俺が、通る度に、憐れみの視線。
それを感じる度に、苛々してしまう。
皆が、そんな風に思う理由。
それは、俺の恋人の事。それが、原因。
俺の恋人の名前は、 。
彼女とは、同級生。
は、生まれつき、身体が弱い。
それが原因で、入退院を繰り返す日々。
俺は、入院する度に、を見舞いに行く。
例え、練習で遅くなっても、間に合う様に会いに行く。
その姿を見る度に、
”侑士、可哀想。”
そんな、表情をする。
俺は、全然そう思わない。
俺が、好きになったのは、で。
そのが、身体が弱かったと、言う事だけで。
同情とか、欲しくてを恋人にした訳じゃなくて。
俺は、彼女を愛したいから、恋人にしたんや。
それなのに、皆は、何か勘違いしとる。
可哀想なんは、や。
あんなに、長い病院生活。
皆と、同じように遊べない。運動も出来ない。
勉強だって、したいって言ってるんに。
勉強なんか、つまらないと言っている、お前等とは、違う。
彼女にとっては、何もかもが新鮮やから。
デートを出来ない。行けるとしたら、病院の中庭位。
こんな事って、あるんか?
が、こんな思いをなんでしないといけないんや。
俺が、変わってやりたい。変われるものなら。
せやけど、そんな事は、出来なくて。
俺は、見舞いと、中庭に行く時に付き合う事しかできない。
の、気持ちも、分からない。
ただ、分かっている振りしかできないんや。
、お前の本音が知りたいんや。
こんな俺は、我が儘か?
は、俺が会いに行くと、嬉しそうに笑ってくれる。
だけど、俺がいない・・・・誰もいない場所では、泣いているのだろうか?
なぁ、俺に、何で隠すん?
俺にまで、涙を隠さないで。
俺には、見せてくれへんか?
「侑士、もうお見舞いには、来ないで。」
ある日、にそう言われた。
どうしてなんだろう。
俺、何かしたん?
分からない。
の、思っている事が。
俺が、もう要らなくなったって事なんやろか。
昨日までは、あんなに楽しく笑っていたのに。
俺の話を、楽しそうに聞いていたのに。
どんな心境の変化?
昨日は、”また、明日ね”って、言ってくれたやん。
それが、どうしてこうなるん?
、何か言って。俺に、理由を教えて。
「良いから、来ないでね・・・。侑士。」
俺は、にとって、そんな簡単に捨てられる男だったんか?
俺にとって、は、違う。
俺は、そんな簡単に、を捨てられない。
捨てられる訳がない。
それなのに、俺を捨てる?
要らなくなった?俺が。
は、俺の見たい、笑顔を見せたくれない。
視線を合わせてもくれなかった。
俺を、見ようとしない。
それは、の中に、俺は存在しないという事。
の世界から、俺は、外れてしまったという事。
決定的。
俺は、次の日から、の病室に行かなかった。
否、行けなかった。
行こうとすると、脚が動かない。どうしても。
否定された。あの日から。
俺は、の病室に行けなかった。
「あかん・・・・。しっかりせな。」
俺は、空を見上げた。
あぁ、どうして、空はこんなに明るいのか。
俺は、こんなに暗いのに。
周りは、どうして楽しそうなのか。
俺は、こんなにも、胸が痛むのに。
「楽しくない。こんなん・・・・。」
そうや、楽しくない。全然。
人生、どうにかなってしまいそうや。
に、会いに行こう。
きっと、彼女だって、会ってくれる。
あの時、気分が優れなかったのだろう。
俺は、そう思いたい。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無い。」
俺は、に会いに行った。
が、居る病院に。
精一杯の、勇気を振り絞って。
なのに、なのに、の名前がない。
の、病室が、見当たらない。
可笑しい。
何で、無いんやろ。
一時、退院をしたんやろか?
それとも、病院を変えた?
そんなん、聞いてない。
「すんません。看護師さん。」
俺は、近くにいた看護師を呼んだ。
は、何処にいるのか。それを知りたかったから。
「あぁ、さん・・・・・・ね・・・。」
の、名前を聞いた瞬間に、暗い表情をする看護師。
嫌な予感が、胸を過ぎる。
そんな、表情をしないで。
そんなに、言いにくい事が起こったのか?
に、何が起こった?
次の瞬間、看護師は、俺にこういった。
「あのね、彼女・・・・亡くなったのよ。」
嘘や。
冗談じゃない。
が、死んだ?
俺、そんなん聞いてない。
聞きたかったのは、そんな事じゃなくて。
俺が、聞きたかったのは、が何処にいるかと言う事。
「あの子、寿命が、もう一週間もなかったの。本人も、分かっていたのよ。
“限界”だって。自分の最期が、分かっていたの。いつ、死ぬかも・・・。貴方、知らなかったの?
亡くなったのは、最近だったかしら。確か、一昨日。」
一昨日。
俺は、試合だった。
練習試合。
俺は、の言葉に意味が分からなくて、集中出来なかった。
後で、監督に怒られてしまった。
せやけど、どうしてや。
俺に、知らせたくなかった?
知って欲しくなかった?
俺は、泣いた。
泣いて泣いて・・・・ずっと泣いていた。
学校にも、行く気になれなかった。
が、この世界にいない。
そう考えただけで、また涙が、出てきてしまった。
「・・・なんでや。どうして、俺に、言ってくれなかったん?」
涙が、止まらない。
制御出来ない。
生きてても、仕方がない。
俺にとって、この世界は、何もない。
だって、が、いないんやから。
死んだ、死んでしまった。。
俺の、愛しい愛しい。
は、葬式もしなかった。
だから、俺はが、最期にどんな表情だったかも知らない。
安らかに・・・・苦しまずに、最期を遂げたのだろうか?
両親や、医者に見守られながら。
俺も、そこにいたかった。
最期まで、の傍に。
なのに、その願いは、叶わなかった。
は、俺に、何も遺してはくれなかった。
あるとすれば、手元にある写真だけ。
その写真を見ると、また、涙が出てくる。
俺は、何度も、の名前を呼ぶ。
返事は、ない。
だって、は、居ないのだから。
存在しない。
が、存在するのは、俺の心の中。
心の中にいるは、何時までも笑顔だった。