どうして、上手くいかないんだ。
擦れ違い。サヨナラは言わない
全てが、良かった。
上手くいっていた。
しかし、それは最初の頃だけだった。
幸せだった。彼女と、二人でいられたという事だけで。
その事実さえあれば、それで良いと思っていた。
しかし、それは、夢の中の出来事の様に、儚いモノでしかなかった。
何処が、違ったんだろう。
一体、擦れ違ったのは、何時だった?
思い出せない。
俺は、彼女を・・・・の事を、見ていなかったとでもいうのか?
否、違う。
俺は、見ていた筈だ。間違いなく。を。
確かに、テニスに集中はしていたが、の事を忘れた事もなかった。
「弦一郎。もう、良いじゃない。私、疲れちゃったよ。テニスが大事なのは、分かるよ。だけどね、我慢していたんだよ?」
は、今にも泣きそうだった。
泣いて、泣き崩れてしまいそうな程、弱く見えた。
彼女は、“少し、離れよう”と言い出した。
だが、俺は、嫌だった。
が、離れるなんて、嫌だ。
許したくない。どうしても。
だが、止める事は、出来なかった。
彼女は、離れて行った。
俺には、テニス以外、何も残されなかった。
離れてから、一週間。
擦れ違っても、視線は交わさない。
こんな時間が、哀しくて、辛くて堪らない。
どうしたら、早く時間は過ぎるのか。
俺は、テニスに没頭した。
を忘れる為に。
彼女を、思い出さない様に。
悲しい気持ちにならない様に、頑張った。
「弦一郎。無理をするなよ。頑張り過ぎは、良くない。」
「蓮二か・・・・。大丈夫だ。今は、この位やらないと、駄目なんだ。
嫌でも、を想ってしまう。それならば、無理しても、この方が良い。」
俺は、ラケットを握る。
テニス・・・・必ず、全国制覇を成し遂げなければならない。
今は、この事だけを考える事にしたんだ。
どうあがいても、は戻ってこない。
(これしか・・・ないんだ。)
「弦一郎・・・・・。」
翌日、が話し掛けてきた。
何だか、数年・・・・いや、それ以上、会っていない様な気がした。
思わず、涙が溢れそうになった。
「御免。なんか、間違ってた。自分だけが、辛い気持ちでいたと思っていたんだけど、弦一郎も辛かった日があったんだね。
自分だけが、我慢していただなんて、思い違いもいいところだよね。御免なさい!!」
「。謝る事なんかない。俺は・・・気にしていないから。だから、頼むから戻って来てくれないか?」
俺は、を抱き締める。
久々の彼女の感触に、嬉しさが込み上げて来た。
「暖かい・・・・。」
俺は、ずっとずっと、彼女を抱き締めていた。
もう、擦れ違わない様に。
“離れよう”なんて、言わないで欲しいと、いう思いを込めて。
擦れ違って、上手くいかなかったけれど、別れの言葉は言わない。
絶対に、言わないと誓ったから。
これからは、また二人で歩いていこう。
また、新しく歩くんだ。
二人で、手を取り合いながら・・・・・。