もう泣かないで。愛しい人。
笑顔が、見たい。それだけ
泣いている。
見た瞬間に分かった。泣いているのだと。
今まで、笑顔だった君の表情が、一瞬にして曇っていた。
一体、何があったの?
そんなに、悲しい出来事に出会ってしまったの?
どうしてか、見ている俺まで悲しくなってきてしまう。
あれ以来、君は、笑わなくなった。
ただただ、悲しい表情をするだけ。
理由を知りたいけれど、俺は、聞けない。
今日も、空は曇り空。
晴れる事もなく、今の所、雨はギリギリ降っていない。
まるで、今の君みたいだ。
泣きそうで、泣かない君。
降りそうで、降らない雨。
ね?似ていると思わない?
俺は、良く似ていると思うよ。
君の心の中も、頭の中も、全て、悲しい事で一杯なんだろう。ずっと。
「え〜・・・・であるから・・。」
教師の声が、響く。
でも、何を言っているのか・・・・・俺の頭の中を通り過ぎていく。
こんな勉強、している場合じゃない。
俺は、授業中でも君を見つめている。
頭の中では、何時話し掛けようかと考えている最中。
ねぇ、話し掛けても構わないかな?君に。
毎日毎日・・・・・気になって仕方ないから。
「さん。ちょっと・・・・良いかな?」
俺は、昼休みに話し掛けた。
すると、さんは、俺の方を向く。
俺が、話し掛けるのが意外だったのか、驚いている表情をしていた。
そんなに意外だったかな。
まぁ、そうか。
俺達、話した事ないもんね。
おやおや、周りの皆も驚いているよ。
俺達が、話すのって、そんなに変かな?
「取り敢えず、此処じゃなんだからさ、屋上に行かない?
あ、一緒にお昼食べるっていうのはどうかな?楽しいと思うよ?」
「悪いけど、行かない。屋上に行きたいなら、一人でどうぞ。」
冷たい反応。
大体は、予測できていた。この反応は。
だけど、例え分かっていても、痛い。
これは・・・・かなり堪えるな。
「私に、話し掛けないで。私は・・・・・。」
「嫌だね。俺はね、これでも、さんに話し掛けるのを我慢していたんだ。
気になって気になって気になって・・・・気になって仕方ないから、勇気を振り絞って話し掛けたんだ。
だから、来てもらう。問答無用でね。」
俺は、それだけ言うと、さんの腕を掴み歩き出す。
後ろで何か言っているけれど、そんなの気にしない。
とにかく、屋上に行くんだ。文句を聞くにしても、それからだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
屋上に着いたのは良いけれど、さんは、俯いたまま、何も話さない。
話して欲しいよ。君の事を。
悲しんでいる、その訳を。
全てを、分かち合えるとは言わない。
けれど、その悲しみを一人で背負うには、重過ぎると思うよ?
「話しは・・・・・・何?」
さんが、漸く口を、開いた。
「いや、さん・・・ここん所、元気ないでしょ?
だから、どうしたのか気になってさ。」
「千石君には、関係の無い事だから。」
ダカラ、ハイッテコナイデ______。
そう聞こえた気がした。
例え、誰かが、”気のせいだ”と言っても、さんの心はそう叫んでいるんじゃないだろうか。
「話しは、終わり。」
それだけを言うと、さんは、踵を返す。
そうはいかない。行かせはしない。
俺は・・・・さん、俺の話しを聞いてよ。
「一人で背負うのは、大変な事だと思うよ?
さん、俺に話して?話してほしいんだよ。
他の誰かじゃなく、この俺に。俺だけに。お願いだ。話して。」
さんは、動きを止める。
そして、俺を真っ直ぐに見つめる。
「・・・・・私の悲しみは、私のモノ。
だから、千石君には関係ないでしょう。違うとは言わないで。」
「今は、そうかもしれないね。だけど、そのうち、そんな事言えなくなるよ。」
そう、君は言えなくなるから。今だから、その言葉を言えるんだ。
泣かなくなるよ。俺は、自信があるから。
君は、きっと笑ってくれる。
何故かって?知りたいの??
それはね・・・・・・・・。
「さんが、大好きだから。」
泣かないで、愛しい人。
側には、俺がいるから。ずっと離れずに。
だから、笑っていて_____。