「幸村。」
白い病室。
誰もいない。
いるのは、俺一人。
一人想ふ。
「・・・・。」
俺が、読んでいた本から視線を声の主の方へと向けると、マネージャーの が立っていた。
彼女は、高校からの知り合い。
そして、マネージャーと部長の間柄。
現在の関係は、そんな感じ。
俺としては、それ以上の関係になりたいと考えている。
だって、好きだから。
が。
誰よりも、愛おしく感じる存在。
でも、今の俺は、そんなことを言う権利はない。
理由は簡単。
俺は、今、病室のベッドの中。
彼女を幸せに出来る自信はない。
そんな、俺が、彼女の気持ちも考えずに告白なんてばかげている。
出来るはずがないんだ。
時々、真田達が羨ましい。憎く感じる。
そんな感情が出てきてしまう自分が嫌いだ。大嫌いなんだ。
こんなドロドロとした感情は、消えて無くなってしまえ。
「今日ね、練習試合だったんだよ。」
は、笑顔を絶やさずに、俺に報告してくれた。
「そうなんだ。皆勝ったかな?」
「うん。皆結構成長したよ?幸村も、早く戻ってきてね・・・・・・。」
そう言ったは、視線を床に落とす。
儚い。
今すぐにでも、消えてしまいそう。
消えないで・・・・・。
俺の前から。
ずっと傍にいて・・・・・。
「あ、あのね!!お見舞いの品なんだけど・・・・。」
何とか、元気を取り戻し、は、俺にお見舞いの品をくれた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・縫いぐるみ?」
ちょっと、意外だった。
男に、縫いぐるみ・・・・。
看護師さんに、からかわれないかな?
ちょっと、不安だけど、がくれたんだ。
有り難く貰っておこう。
因みに、”どうして、縫いぐるみ?”と、彼女に聞いてみた。
そうすると、彼女は、”幸村が一人でも、寂しくないようにだよ。”と笑って答えた。
ねぇ、。
君の目に、俺は、どう映っているの?
君の心の中に、俺はいるの?
君は、俺がいないところでも、俺を想ってくれるだろうか。
俺と、一緒にいる時、幸せ?
俺といる時に、違う誰かのことを考えているの?
俺が、無事に退院できることを祈っていてくれるだろうか。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・私ね。」
が、突然声を発した。
俺は、現実の世界に戻る。
「何?どうしたの??」
「ん・・・・あ、あのね・・・・?」
は、何かを伝えようとしている。
何を伝えようとしてくれているのだろう。
俺にとって、それは、嬉しいこと?
俺にとって、それは、悲しいこと?
俺にとって、それは、幸せな想い出になる?
俺にとって、それは、哀しい想い出になる?
「ううん・・・・今は、止めておくね。」
「そう・・・・。言える時期になった言ってね。いつでも聞くよ。」
嘘
。
俺は、嘘を付いた。
”いつでも聞く”
そんなこと出来ない。
だって、嫌な報せならば、俺は、聞きたくない。
耳を塞いでしまうから。
「ねぇ、幸村。手術・・・・怖くない?」
「大丈夫だよ。」
俺は、の不安を掻き消してあげたい一心で、笑顔で”怖くない”と答えた。
「嘘吐き・・・・。幸村、本当は怖いでしょう?私に嘘は付かないでよ。」
正直、驚いた。
まさか、演技がばれてしまうなんて。
怖い・・・・怖いさ。
怖いよ。
抱き締めて欲しい。
ずっと・・・・ずっと、抱き締めて”大丈夫”と囁いて。
「やっぱり、言っちゃおうかな。」
「・・・・・・・何を。」
「あのね・・・私。」
何を聞くのだろう。
怖い・・・・・止めて・・・。
、今は言わないで。
「幸村が好きなんだ。」
耳を疑った。
嘘だ。
いや、真実か?事実?
夢じゃない?が俺を好き?
「ほんと・・・・う・・・・・・に?」
声が震える。
余りにも。嬉しかったから。
、君が嬉しいことを言ってくれたから。
俺のことが、好き。
その言葉は、俺に勇気をくれる。
だから、俺も言うよ。
君は、俺が言ったらどんな表情を作るだろう?
驚いた表情?
嬉しい表情?
顔を。赤くしてしまうだろうか?
思わず、笑みが浮かんでしまう。
「。俺はね・・・・・。」
退院したら、何処かへ行こう。
今まで、何処にも行けなかったから。
君の笑顔を見られるならば。
は、お弁当を俺だけの為に作ってくれるかな?
俺は、君の為。
願い事を、叶えてあげたい。
そして、何時の日か・・・・プロポーズを・・・・・・・。
いつまでも、一緒にいたいから。
きっと、その時までには、二人、名前で呼び合っているだろう。
俺には、今からその光景が見えるよ。
にも・・・・見えているだろう?