さよならなんて、、、
さようなら。
さよなら。
サヨナラ。
“また、明日”が付けば、明日も会える可能性は・・・・・零じゃない。
“出来れば、二度と会いたくない”と付いてしまえば、永遠の別れになってしまうかも知れない。
そんなのは、嫌だ。
そんな自分の念いとは正反対に、彼女の心は向かってしまったのだろうか?
俺は、どうしたら良い?
なす術も無く、黙って見ているしかないのだろうか。
「遅っせぇなぁ・・・・・。」
雨の中、一人待ちぼうけをくらった。
かれこれ、一時間立ち続けている。
いくら待っても、来る気配がない。
「時間・・・・・間違えたか・・・・?」
時間には、正確な彼女。
俺の方が、毎回遅れていた。
それが、逆になったのは・・・・・つい最近。
これまでの俺は、全く不思議に思わなかった。
(けど・・・・・。)
「遅くなって、悪かったわね。」
「・・・・・お前、遅すぎだっての!!」
結局、あれから一時間以上立ち続けた俺。
よくもまぁ・・・・・これだけ我慢出来たもんだな。
でも、を見た途端に、怒りが込み上げて来た。
全く、悪びれもせず。
全く、急ぐ事もせず。
本当に、遅刻した事を悪いと思っているのか疑いたくなる。
「怒鳴るのを、止めてくれないかしら。周りに、迷惑。」
「周りなんか、関係ねぇよ。理由を教えろぃ!!」
「煩いわね・・・・・。」
は、欝陶しそうな表情しながら、歩きだす。
俺の横を、過ぎたその時だった・・・・・。
(ん・・・・・・?)
違和感。
何処か、違う。
何処だろう。
俺が感じた、違和感は。
「おい、。」
「何かしら。」
俺の呼び掛けに、はメニューを見ながら答える。
_____俺より、メニューが大事なんかよ。
本当に、良い度胸をしていると思う。
俺が、どんなに暴れようが、叫ぼうが・・・・・お構い無し。
平然としていて、俺を怖がる事もない。
逆に、が怒る方が怖い。
の場合には、暴れたり、叫んだりなんてしない。
ただただ、静かに怒る。
その静けさが、嫌だ。
「ブン太、用件を言いなさい。」
「あ?あ〜・・・・・お前さ、香水変えた?」
「変えたわよ。」
“それが、何か?”
は、そんな視線を、俺に向けてくる。
以前は、こんなんじゃなかった。
もっともっと、幸せな気分になれていた。
それが、今はこんな状況だ。
(何なんだよ・・・・・まだ、一年経ってねぇのに。)
出来れば、と“結婚”までしたい。
最近の俺は、そんな事を考える様になった。
どうしても、彼女を他の奴に渡したくないから。
だから、別れたくない・・・・。
(・・・・・んだけどよぉ。目の前の人は、メニューに夢中らしいな。)
未だに、何を食べようか迷っている。
頁を行ったり来たりしては、途中で止まったりする。
彼女の行動は、外見に反して可愛い時がある。
(こんなん見れるの、俺だけだよなぁ?)
それを思うと、嬉しくなる。
他の奴が知らないを、俺は知っている。
「一人で笑ったり、怒ったり・・・・ブン太は、変ね。」
「え?そうか??」
「そうよ。」
それだけ言うと、はまたメニューと格闘し始める。
それを見て、俺はまた可愛いと感じてしまう。
可愛い。
本当に、可愛い。
そう思う内に、違和感は無くなっていた_____。
「・・・・・・今、何て言った?」
「だ〜か〜ら〜。先輩が、知らない男と歩いてたんすよ!!!」
翌日の話だった。
赤也が、俺にそう告げたのは。
が、俺じゃなくて・・・・他の男といるのを見たって言ったのは。
「お前・・・・・嘘付くんじゃねぇよ。」
信じられない。
信じたく、ない。
赤也の、言った言葉を。
「なら、直接本人に聞いたらどうっすか?」
“先輩なら、隠す事はしないっしょ。”
「それが?」
「それがって・・・・・。」
「私が、他の男性といるのが、そんなに可笑しいとでも言うの。」
「じゃあ・・・・・本当に、いたのかよ。」
「否定は、しないわ。」
“否定は、しない”
否定を、全くしない。
非なんか、全くないのだろうか。
俺に対して、全く悪く思っていないのか?
「はさ、俺の事好きか?」
「勿論よ。」
「・・・・・・それは・・・嘘じゃない?」
嘘じゃないって、信じたい。
俺を好きだって・・・・・俺だけだって、信じたい。
「・・・・・はぁ・・・仕方ないわね。来なさい。」
は、落ち込んでいる俺の腕を掴んで歩き出した。
一体、何処に連れていく気なのだろうか。
今の俺は、といたくない気持ちの方が大きい。
振り解いてしまいたい・・・・・・。
そんな気持ちに反して、身体は動かない。
俺って、どうしてこんなに意志が弱いんだろう。
「何で・・・・・音楽室・・・・?」
「黙って、聞いていれば良いのよ。」
は俺の手を離すと、ピアノがある方へと向かった。
「本当なら、放課後にするつもりだったのに・・・・・。」
“赤也、後で呪ってやるわ”
はそう言って、椅子に腰掛ける。
一体、ピアノで何をする気なんだろうか。
「なぁ、俺ピアノなんかわか「黙っていなさい。」
・・・・・・見事に、切られた。
バッサリと、斬られてしまった。
こんな時にも、は容赦がない。
「ショパンの“ワルツ第二番変イ長調”。これは、大変だったのよ。だから、黙って聞いていなさい。丸井ブン太。」
「お、おぅ・・・・・。」
“丸井ブン太”
俺をそう呼ぶ時のは、怒っているという時だ。
ソレを感じ取った俺は、黙って従うしかない。
(ショパンって何だよ・・・・・あ〜・・・・・わっかんねぇ・・・・。)
俺が、そんな事を考えていても、は気にせずに鍵盤を叩き始める。
静寂の中に、ピアノの音色だけが、響き渡る。
凄く・・・・綺麗な音色。
俺には、真似出来ない。
どうやったら、こんなに簡単に弾いてしまうのだろう。
彼女には、不可能がないのだろうか。
羨ましい・・・・・。
本当に、その能力が欲しくて仕方がない。
俺は、ずっと魅入っていた。
ピアノのを自在に操る、を。
二人だけしかいない音楽室に、鳴り響くピアノの音色に・・・・・。
「・・・・・ふぅ。どうやら、間違わずに済んだみたいね。」
「やっぱ、スゲェよ・・・・・。」
「凄くないわよ。これでも、長い時間をかけて練習したのよ。」
“毎日毎日、休みがなかったわ。”
・・・・・・・・・・ん?
「ちょっ・・・ちょっと待て。毎日?」
俺は、引っ掛かった。
が言った、一言に。
毎日。
は、今・・・・・毎日って言ったか?
「そうよ。」
「じゃあ・・・・デートに遅れたのは?」
「先生が、練習をしなければ駄目だと言ったから。」
「その・・・・・先生って奴は・・・・男?」
「質問攻めは、好きじゃないけれど・・・・そうよ。だから、何?」
「・・・・・・・・・・・・・・・良かったー!!!!、やっぱ俺だけだよな?俺を好きなんだよな!」
喜びの余り、をきつく抱き締めてしまった。
そうしたら、“痛い”と叱られてしまった。
でも、そんなのどうだって良い。
疑いが、晴れて。
は、俺の事が大大大大大好きだって分かって。
「でもよぉ・・・・・何で、ピアノ?つか、今の今までどうして秘密なんだよ。」
「どうしてって・・・・・貴方、誕生日でしょう?私からの、プレゼントよ。」
「・・・・・・・・食いモンの方が良かった。」
「あぁ、そう。じゃあ・・・・これは要らないのね。」
呆れ顔になりながら、が取り出したのは・・・・・綺麗に包装された箱。
もしかして、二つ目のプレゼント?
「これは、別の人にあげるわ。ブン太には、食べ物をあげるわよ。」
「わー!!!ダメダメダメダメ!!!!」
俺は、からプレゼントを奪い取る。
冗談じゃ、ない。
他の人間に、プレゼントが渡ってしまうなんて。
絶対に、やらない。
このプレゼントは、俺のモノ。
奪った直後、俺は包み紙を剥ぎ取り、箱の蓋を開けてみた。
箱の中身は_____。
「香水?」
「そうよ。貴方に合うような香水を捜していたの。」
“お陰で、服に香が着いたりして大変よ”
俺に、香水・・・・・ねぇ。
なんか、似合わないと思うんだけど。
そういったら、は
“なら、大人になったと思ったらつけてみたらどう?”
と、笑っていた。
俺が、大人になったら。
大人になった俺は、どんな風になっているんだろう。
まだ、想像がつきそうにもない。
「とにかく。お誕生日・・・・・おめでとう。」
心から、貴方に祝福を・・・・・。
「・・・・・・・・・よし。」
服装は、変じゃない。
髪型も・・・・・悪くない。
もう一度、鏡で全体を見てチェックをする。
「これで・・・・・って・・・ヤベッ!!遅刻じゃん!」
時計を見た俺は、焦った。
完璧に、遅刻。
完全なる、遅刻。
は、怒らないだろうか。
怒るより、呆れ・・・・か。
「行ってきます!!」
親には、帰りは明日と告げてある。
今日は、と一緒に住む物件を捜したり、お揃いの食器を捜したり・・・・・要は、同棲の準備に取り掛かるって訳。
(大人になった・・・・よな。)
そう、俺は大人になった。
以前より、ずっとずっと。
でも・・・・・机の上に置かれた香水の瓶は、まだ開けていない。
これをつけるのは、もう少し後にしようと決めているから。
そう・・・・・との結婚式の日につけようと・・・・。