振り向いてくれない、君へ
「どうしたら、僕を見てくれるの?」
何度目の問い掛けなのだろう。
どの位同じ質問をしたのか、忘れてしまった彼は、また同じ問い掛けを目の前にいる彼女にした。
彼―――――雲雀恭弥にとって、こんなに一人の女子に固執している事は、生まれて初めての経験だった。
況してや、自分が嫌う草食動物の部類に入る女子になんて。
彼女には、一体何度振られたのだろうと、返答に困っている彼女から、答えが返ってくる間、考えてみる。
一回や二回なんかではない。
もう、何十回振られているな・・・・・と、考えたら、何だか可笑しくなってきた。
こんなの、自分から見ても滑稽なのだから、他人から見たら、かなり滑稽すぎて笑えるんじゃないだろうかと、彼は、自分を嘲笑った。
「御免なさい。」
あぁ、やっぱりまた同じ答えなんだと、内心落胆しながらも、彼は冷静を装い、どうして?とまた質問を繰り出した。
すると彼女は、また困った様な表情をして、どう答えようかと考え始めてしまう。
彼女、からしてみれば、雲雀恭弥という人間は、苦手なのだ。
何時も一人で行動し、気に食わなければ、叩き潰す。
そんな人間と一緒にいたら、きっと自分も同じ目に合うかもしれない。
それが怖いから、付き合うなんて事は考えられないし、考えたくもなかった。
雲雀恭弥は、自分の何処を気に入ったのだろう。
何時も頭の中に浮かぶ疑問を、目の前の彼にぶつけたいが、それはかなり勇気がいる事だと、彼女は問い掛けるのを諦めた。
そして、また決まった台詞を伝えると、彼は今日は諦めたのか、席を立ち、室内から去っていってしまった。
彼の姿が見えなくなると、彼女は、安堵し、再び手に持っている本へと視線を落とした・・・・・。
「・・・・・・・・・・。」
「ねぇ、試しに付き合ってみてよ。」
「つ、付き合・・・っ・・・?」
「そう。付き合うの。御試しなんだから、別に構わないでしょ?僕にしては、かなり寛大な提案なんだけど?」
何て自分勝手なのだろうと、彼女は思った。
こんな勝手な提案の、一体何処が寛大なのだろうと、本当ならば反論してしまいたかった。
しかし、彼に対する恐怖心が其れを許さない。
何故・・・・何故、自分がこんなにも理不尽な事をされなければならないのだろう。
どうしてこんなに、自分に執着してくるのか、本当に、本当に、不思議でならない。
彼と自分では、全く接点がなかった筈なのに、ある日突然、告白してきたのだ。
嫌だったから断り続けたのに、彼は全く分かっていないのだろうか?と、彼女の頭の中に、また疑問が浮かんできた。
この申し出は、受けなければならないのだろうか。
“嫌です”と、また断ってはいけないなだろうか?
「・・・・・・僕も、そろそろ限界なんだよ。」
その台詞に、彼女は視線を上げる。
其処には、何時もの瞳ではなく、獲物を鋭く見つめる、獣のような瞳の雲雀恭弥がいた。
怖い、怖い、コワイ。
このまま、逃げてしまいたい。
それなのに、足は動いてくれようとしない。
こんな状況を、だれか助けてくれないだろうかと、彼女は願った。
しかし、周りには人影すら見当たらない。
「・・・・・・良いよね?僕と付き合ってくれるでしょ?」
「そ・・・・れは・・・・・。」
「嫌って言ったら・・・・・・咬み殺したくなるかも知れないよ・・・・。」
ヒンヤリと冷たい手が、彼女の頬に触れた。
この手さえも振り払うことはできず、彼女は拒否の言葉ではなく、了承の言葉を紡ぎ出す外無かった。
了承の言葉を聞いたからなのか、彼はとても満足げな表情を彼女に向けた。
「じゃ、今日から君は僕の彼女だから。他の男なんか、見ないでね・・・・見たら、そいつを咬み殺しちゃうからね・・・・。」
「っ・・・・・そ、そんな事・・・しません。」
逆らえない。
目の前の男には、逆らうことが出来やしない。
自分では、地球が引っくり返っても、逆らうなんて行動を起こせるとは思えない。
どうせ、捕まってしまえば最後なのだと、半ば諦めの気持ちが心の中に生まれてきた彼女は、軽く溜め息を漏らした。
そんな仕草を気にする事無く、彼は彼女の手を握り歩き出す。
(絶対に、離してなんかあげない。君は、僕のものなんだから・・・・・。)
お試しとはいえ、欲しいものは手に入った。
どうやったら手に入るのか、考えて考えて考えて、自分が我慢できる最低ラインの提案を、差し出した。
此処まで苦労したのだから、絶対に離しやしないと、彼は心の中で笑った。
そして、彼は彼女に向かってこう告げる。
「君は、僕を好きになるよ。だって、この僕が好きになったんだからね。好きになってもらわないと、困るよ。」
その台詞に、彼女はどうしたら良いのか分からず、曖昧な笑みを浮かべただけだった。