環君を見つめていたの。
貴方は、誰
?
私は、環君を見つめていた。
始めて会った時からずっと。
指名した時から、今日に至るまで。
彼以外なんて、視野に入らなかった。
入るはずなんてない。
だって、環君が好きだから。
だから、だからね?
気付かなかった。本当に。
御免なさいね。
思ってもみなかった。
貴方が、私を見つめていた事を。
私だけを見つめて、好きでいてくれた事を。
大事に想っていてくれた事を。
知らなかった事を罪とするならば、私は、貴方に懺悔しなければならない。
けれど、貴方は、望まないでしょう。
優しいから。優し過ぎる人だから。
『君が・・・・好きなんだ。』
突然言われた、あの言葉。
それまで、私は、知らなかった。
貴方は、それ以上の言葉は紡がずに、私の前から去って行った。
そう、私の返事も聴かずに。
知っていたのでしょう?
私が、環君を好きだという事を。
だから、分かっていた。
私が、どんな言葉を、貴方に与えるのか。
それとも、ただ、聴くのが怖かったと言うの?
あれ以来、貴方の去っていく後ろ姿が忘れられなくて、どうしても忘れられなくて、貴方を追ってしまう様になってしまった。
私は、環君を想うのではなく、貴方の事を考え、想ってしまっている。
もしかして、あの時に、魔法を掛けられたのだろうか。
貴方を、見る様に。
貴方を、想う様に。
貴方を、忘れられない様に。
「崇・・・・さん。」
貴方は、ホスト部にいた。
私が、環君に、会うためだけに通っていた、ホスト部に。
すぐ傍にいたのに、知らなかった。貴方の存在。
私は、なんて駄目なのだろう。
今日は、行く気になれない。
行けば、嫌でも会ってしまう。
会えば、鮮明になってしまうから。あの時の、貴方が。
「・・・・・ちゃん?だよね。」
「え・・・・・?」
突然、話し掛けられた。
誰なのかと思ったら、確か・・・・光邦・・さん?
私は、この人の存在も、最近知った。
崇さんといつも一緒にいる人。
一体、私に何の用なのだろう。光邦さんは、私に、悲しそうな視線を向けている。
何か、したのだろうか。
いえ、私は、していない・・・・筈。
話したのは、これが初めて。
初対面・・・・では、ないだろうけれど、初めてだった。
「あのね?崇がね?元気ないの。ずっとずっと、元気がないの。
皆には、分からないようにしているけれど、元気がないんだ。
僕には、分かるんだよ。ねぇ、ちゃん。ホスト部に、来て?
崇を、想うなら。崇を、好きなら。逃げないであげて?僕から、お願いする。来て下さい。」
「で、でも・・・・・・・。」
ドンナカオヲシテアエバイイトイウノ・・・・・。
「でももなにもないよ。無しだよ。僕はね、崇に幸せになって欲しいの。あんな悲しい表情は、見たくないんだよ。」
“悲しい表情は、見たくない。”
そう言った時の、光邦さんは、本当に辛そうだった。
そして、光邦さんは、こう言葉を続けた。
「ちゃんは、好きなんでしょう?崇は、待っているんだよ。ちゃんを。」
待っている。私を。
私だけを。
そう思った瞬間に、私は、走り出した。無意識に。
何も知らなかった。貴方の事。
けれど、あの日から、貴方を忘れない日々が続いていた。
ねぇ、崇さん。
私達は、始められる?
まだ、何も書かれていない、真っ白なノートの一ページに、書き込む事が出来る?
私達の、新しい一歩を。物語を。
“始めましょう。全ては、此処から始まるの。一緒に、歩みませんか?”
そう言ったら、どうなるかしら。
どんな、反応が見られるのだろう。
そう考えながら、私は、音楽室の扉を開ける。
貴方に、会うためだけに・・・・・・・。