覚
悟は、良いですか?
「私を、貴方の恋人にして下さい。」
白昼堂々、彼女は俺に向かってそう告げた。
一体、自分の身に何が起きたのだろうか。
ただ単に、そういう風に聞こえただけなのだろうか。
所謂、幻聴・・・・と、いうヤツか?
(だが・・・・・俺は、耳は悪くない筈・・・なんだが。)
耳が遠くなるには、まだ早い。
幻聴が聞こえる程、調子だって悪くない。
「銛之塚さん、私の話しは聞こえていますか?」
「あ、あぁ・・・・・。」
「では、返事をください。今すぐに。」
「・・・・・・・・。」
何て、無茶な事を言うんだ。
初めて出会って、突然告白されて、直ぐに答えろとは・・・・・不可能に決まっている。
彼女は、一体何を考えているのだろうか。
こんな事をして・・・・・何をしたいのだろうか。
恋人になりたいというのは、良く分かったが。
よく分かったんだが・・・・・。
「直ぐには、無理だ。」
「そうですか・・・・・そうですよね・・・。」
それは、当たり前だろう。
きっと、彼女も分かったのだろう。
答えられないに、決まっている・・・・・と。
「・・・・・済まない。」
「そこは、崇さんが謝る所ではないと思います。」
“だから、謝らないで下さい。”
そう言いながら、笑った彼女。
その笑顔を、俺は忘れる事がどうしても出来なかった。
。
あの日から、全く会わなくなってしまった。
思えば、名前しか聞いていない。
学年も、クラスでさえも、聞かなかった。
捜しても良いのだが・・・・なかなか時間が空かない。
。
あの日以来、彼女は会いに来なくなった。
あの出来事は、やはり夢だったのだろうか。
忘れられない。
インパクトが、あったからなのか。
何故なのか・・・・俺にも訳が分からない。
「銛之塚・・・・崇さん。」
「君は・・・・・。」
「です。覚えていますか?」
「あぁ・・・・・。」
勿論、覚えている。
どうしても、忘れられなかった。
忘れる事が、出来なかった。
「そろそろ、返事が頂けるかと思って、きました。」
「あぁ・・・・返事か。」
“友達からじゃ、駄目だろうか”
そう言ったら、彼女は拒否の反応を示した。
友人では、駄目だ。
友人だと、そのままの関係で終わってしまう可能性があるから。
自分は、そんなのは耐えられない。
我が儘だと思う。
それは、分かっている。
でも、私は我慢は出来ない。
どうか、分かって下さい。
どうか、どうかこの気持ちを分かって下さい。
「・・・・・・・・・・。」
「ですので、お願いします。」
深々と、頭を下げられてしまった。
頭を上げてくれと言っても、上げる気配はない。
どうしてここまで、一生懸命になれるのだろうか。
振られるかも知れないのに。
「君は・・・・強い人間なのか?」
「いいえ。弱い人間です。」
“私は・・・・・決心をしただけです。覚悟を、決めただけなんです。”
「覚悟・・・・・か。」
俺は、あんな風になれるだろうか。
彼女の様に、出来るだろうか。
「・・・・・行くか・・・。」
行く場所は、大丈夫。
既に、決まっているから。
俺は、歩き出す。
ある場所に向かって。
・・・・君に、その勇気を貰いに行く為に。