飽きてしまったんだ、仕方ない
「・・・・・・・・。」
やる気が出ない。
授業も人との会話も、ホスト部の接待も。
何も、やる気が起きない。
一体、何時になったら会えるんだろう。
まだ、一週間も経ってないけど・・・・・本当に、限界だよ。
は、一体何をやっているのさ。
僕が電話したって、留守電だし・・・・・メールすら返信がないなんて・・・・・。
僕なんか、もう食べ物だって、喉を通ってくれない気がする。
もしかしたら、僕は、死んじゃうのかな。
嫌だ・・・・・まだ死にたくないよ。
だって、を幸せにしてないんだから。
僕が、居なくなって、他の男がを幸せにする位なら、君にも一緒に死んでもらわなきゃ。
他の男となんか、絶対に許してやらない。
は、僕だけのものなんだから。
それにしても・・・・・。
「本当に、何をしているんだろう。」
声だけでも・・・・聞きたいよ。
「や、やってられないわ・・・・・。」
次から次へと増殖していく、書類の束。
一つ終われば、二つ増えているようなこの有り様。
一体、これは何?
見渡す限り、書類の山だらけ。
第一、私がこんなにする必要があるのかしら。
まだ、大学生で勉学に励んでいる私が。
父はまだ健在で、働き盛りなのに、何故こんなに私に書類が回ってくるのか不思議でならない。
(一体、何を企んでいるのかしら・・・・若しくは、私のこの状況を見て、楽しんでいる?冗談じゃないわ・・・・。)
父は、光の事を快く思っていない。
この家に、相応しくないと思っているから・・・・遠ざけたいのね。
あの子だって、やる時にはやると・・・・思うけれど・・・。
一度位会ってくれても良いと思うのに、話を逸らして一向に会う気配がない。
そろそろ私も、限界が近いのよね。
仏の顔も三度までと言うけれど・・・・今、まさにそういう状況だわ。
あぁ、もう良いわ。
こんな仕事を、している場合じゃない。
もう飽きた。
こんな事をした私が馬鹿だった。
こんな事をした私は、何て愚かだったのかしら。
御免なさいという言葉だけでは足りないけれど。
どうか・・・・御免なさいと、言わせて。
もう我慢は・・・・・したくないけれど・・・。
「これを見捨てる事は・・・出来るわけがないわよね・・・・。」
「あー・・・・・・。」
「コラ、光!そんなにだらけてどうする。お客様に失礼だろう?」
「煩いなぁ・・・・・殿には、僕の気持ちなんか分からないよ。今日はやる気が起きないよ。放っておいて。」
何もしたくない。
もう、何もしたくない。
何もしたくないから、ずっと椅子に座って休ませてくれたって良いじゃないか。
殿なんか、絶対に絶対に、僕の気持ちなんか分からないんだから。
だから、僕に説教なんかしないでもらいたいよ。
に会いたいよ、に物凄く会いたい。
会いたいのに・・・・・。
「どうせ恋人が、会わないとか言ったからいじけているだけだろう?光。今のお前の姿を、その彼女が見たら、どう思うんだろうな。」
「・・・・・・・・。」
「きっと、失望するんじゃないか?」
「・・・・・・・・・。」
失望は・・・・・・嫌だな。
失望されたら、嫌われちゃうのと同じ感じでしょ?
それは、絶対に嫌だよ。
嫌なんだけど、に会えなきゃ、やる気が出てこないんだよね。
会って、沢山話をして、沢山デートして・・・・と楽しく過ごせれば、やる気が湧くんだけどね。
こんな状態じゃあ、やる気を出せと言われて“はい。やる気を出します”って訳にはいかないし。
「やっぱり、今日は帰ろうかな・・・・・。」
「あら・・・・・貴方は、もう接待しないの?」
“それは残念ね。折角お願いしようと思ったのに”と残念そうな台詞の割りには、面白そうな口調。
僕の方に近付いてくる、ヒールの音。
僕が隣にいたら、恋人じゃなくて美人なお姉さんと間違われてしまう程の、美しい容姿。
どうして?
だって、会わないって言ったじゃないか。
僕が、変わるまで会うのをよそうって・・・・・。
「お久し振り。と言っても、一週間しか経っていないけれど。」
「ど、どうして此処にいるのさ・・・・・学校なんかには、来ないって・・・・・。」
「気が変わったのよ。貴方、何時もそんなにだらしなく接待を?」
呆れた表情で僕を見つめるのは、間違いなくだ。
一週間も会わなかったから、物凄く寂しかったというのに、は、全くそんな雰囲気じゃない。
やっぱり、僕だけだったのかな・・・・・寂しいなんて思ったのは・・。
そう考えたら、何だか凄く泣きたい気分。
やっぱり、一方通行?
「・・・・・・会いたかったわよ。久々の再会で、そんな湿気た顔はないでしょう?それとも、貴方は会いたくなかったの?光。」
「会いたかった・・・・よ。本当に、死ぬかと思ったんだからね!が、恋しくて恋しくて、仕方無かったんだ!僕をこんな風にして・・・・・どう責任取るのさ!」
「そうね・・・・・一生側にいてあげるわよ。あぁ、でも学校は休まないように。これでどうかしら?」
「足りないよ・・・・・僕の気は、済まないよ。」
きっと僕は、幼い子供の様な顔をしているに違いない。
でも、でも・・・・そんなんじゃ、足りないんだよ。
其れほどまでに、は僕にとって、大きな存在なんだ。
だから、一週間も離れていたのに、そんなんじゃ足りるわけがないよ。
「仕方無いわね・・・・・貴方は、まだまだ坊やなのかしら。」
「んなっ!そ・・・・っ・・んんっ・・・!!!!」
“坊や”と言われた事に反論しようとしたけれど、の唇に塞がれたせいで、言葉が出なかった。
目の前には、の整った顔。
周りに視線を向ければ、キャーキャー騒ぐ声と、茫然としている皆がいる。
・・・・・・皆にバレちゃったよ。
今まで、どんな人と付き合っていたのか秘密にしてきたのに。(鏡夜先輩は、知っていたと思うけど。)
きっと、色々な事を聞かれるんだろうなぁ・・・・。
(まぁ・・・・・良いか。)
今は、とのキスに集中しよう。
そう決めた僕は、腰に腕をまわし、を引き寄せ抱き締める。
あぁ・・・・・幸せだな。
が、僕に会いたくて会いに来てくれたんだから・・・・。
でもさ・・・・・会わないって言ったのはだよね?
「っ・・・・ねぇ、も僕に会えないのが耐えられなかったって事?」
「そうよ。会えない事に飽きたのよ。仕方無いでしょう?私は、貴方を愛してるのよ。」
その台詞を聞いた直後、今度は、僕からの口を塞いだ。