君は、美しい。
NOではなく、YESと・・・。
”こんなジンクスを知っているか?”
環の話は、そこから始まった。
どうせ、くだらない話をするつもりだろう。
俺は、そう感じながら、仕方なく話を聞くことにした。
「今度、ダンスパーティーがあるだろう?そのジンクスなのだ!!」
「何だ。それは知っている。
七時ちょうどに、あそこの塔の下で告白すると
そのカップルは永遠に結ばれる・・・・・・・だろ?」
俺がそう告げると、環は、言葉に詰まった。
やはり、予想通りだ。
環は、つまらなそうな表情をしている。
やれやれ、大きな子供みたいだな。環は。
「こういった類の話は、鏡夜は、知らないと思ったんだがな。
知っていたか・・・。まさか、鏡夜!お前、好きな女性がいるのか!?」
「馬鹿な事言うな。俺は、そんな感情は、ない。」
そうだ。恋愛なんか、二の次だ。
今は、他にやる事があるのに、どうして、そんな事が出来る?
俺は、環とは違う。
「鏡夜様よ。いつ見ても、素敵な方ね・・・・・。」
クダラナイ。
「鳳家の、息子だからな。仲良くしておけば・・・・。」
クダラナイ。
「三男って、跡は継げないんだろ?可哀相だな、アイツ。」
クダラナイ。
言いたい奴は、言っていれば良い。
そんなのは、気にしない。俺は、俺のやるべき事をやるだけなのだから。
今の俺には、これしかない。他には、何も無い。
やる事としたら、自分にとって、害がある”モノ”を排除するだけ。
『鏡夜、恋愛は良いぞ。今までの世界とは、また違うんだ!
何時も見て来た風景も、違って見えるんだぞ!!本当に、恋愛は素晴らしいな!鏡夜もどうだ?これは、価値がある!!』
以前、環がそう言っていた。
世界が、変わるだと?そんなのは、幻にすぎない。
ただ、幻想を観ているのだろう。実際は、全く何も変わっていない。
まやかしだ。そんなモノは。
そんなモノに、どんな価値があるのか。
俺には、分からない。分からなくたって、良い事だから。
必要な事では、ないから。だから、俺は、知らなくて良い。
昔も、今も、これからも。
「それでな、が可愛いんだぞ!!分かるか?分からないだろうな、鏡夜には。の良さなんて。」
また始まった。
恋人が出来て以来、環は、一日に一回以上は、惚気話をするようになった。
いい加減、飽きないのだろうか。
気付かないのだろうか、恋だの愛だの・・・・そんなのは、一時の感情であって、幻であるという事を。
否、気付かない方が良いのかもしれない。
気付かなければ、気付かないで、それはそれで幸せだろう。
例え、それが長続きしなくても。
俺は、嬉しそうに話す環に、何も言わない。
言う必要が、ないから。
言った所で、俺に何か利益があるか?
そんな事があるとは、思えない。だから、言わない。
「鏡夜!!やはり、お前も恋をしろ!するべきだぞ!」
「遠慮しておく。生憎、興味が無いものでね。」
きっと、俺には、一生ないだろう。
誰かに、恋をするなんて事は。幻を、見る事もないだろう。それで、良いんだ。俺は。
「何を言っているんだ。一度は、経験するべきだ。恋愛をしろ。鏡夜。」
「俺には、そんな経験は必要無い。
恋愛なんか、したい奴がすればいいだけの事だ。無理矢理して何になる?
そんな事をしても、意味が無いだろう?」
馬鹿げている。
どうして何度も何度も、”恋愛をしろ”と、言われなければならないのか。
返る言葉は、いつも同じ言葉なのに。
飽きもせずに、環は、俺に言ってくる。
環、俺は、お前にも言っていないことがある。
俺には、婚約者候補に挙がっている女がいる・・・・・。