出会えた、この瞬間。僕は感謝すると誓うよ。
「君、最近仕事を疎かにしているよね。一体何をやっているの?僕に言えない事はないんだから、言ってみなよ。」
「・・・・・・・・それは、命令ですか?委員長。」
「そうだよ。それ以外の何に聞こえたの?」
「いえ・・・・・特に。」
最近のは、何処か可笑しい。
仕事は、真面目にやっている方だと思うけど、僕としては、以前よりも取り組む態度が可笑しくなってきている。
一体、何があったのだろうか。
草壁達に調べさせてみても、サッパリ分からない。
勿論、この僕が直々に調べてみたけれど、やはり分からなかった。
こんな事、本当は言うつもり無かったんだけどね。
でも気になったし、仕事に支障が出るのは困るから、言ってもらわなければならない。
君は、一体何をやってるの?
一体、何処で何をやっているというの?
さぁ、答えて貰おうか。
君は、一体どうしちゃったというの?
それは、僕が頼む仕事よりも、大事な事なわけ?
「申し訳ありませんが、それについて一切お答え出来ません。例え委員長の命令だとしても・・・・・私は、黙秘します。
こんな私を、許せないなら、それはそれで構いません。ですが、どうか・・・・どうか、それについては、今後一切触れないで頂きたい。」
が、僕に逆らった。
こんな事、初めてだった。
何時も、僕が言った仕事を忠実にこなし、反抗する事が無かった彼女が。
今、僕に絶対的な拒否の視線を向け、僕に向かって、反抗的な言葉を口にした。
これ以上は、追及は無理・・・・・か。
僕は、君が頑固だと知っているから、もう何も言わないよ。
でも、これだけは覚えておいて欲しいものだね。
「僕の期待を裏切ったら・・・・いくら君でも、容赦はしないよ。」
「あ・・・・・。その・・・・昨日は済みませんでした。」
「・・・・・・・・・これは?」
少し汚れた椅子に座った私に差し出された、箱。
箱の形を見れば、洋菓子が入っている事は間違いない。
しかし、私は敢えて自分の目の前にいる、全く余裕が無くオドオドしている六道骸に尋ねてみる事にした。
別に、悪戯をしたいわけじゃないし、苛めたいと思ったわけでもない。
純粋に、どういうつもりなのかを尋ねてみたかった。
まさか・・・・私のご機嫌とりをしようとしているんじゃないでしょうね。
そうだとしたら、私は目の前の箱を開けて、顔面にケーキを投げ付けてやるわ。
いっその事、顔面生クリームまみれにしてやろうかしらね。
すると六道骸は、私が何をするのか察したのか、慌てた様子でこう言った。
「ち、違いますよ。ただ、昨日の僕は酷い事を言ってしまいましたし・・・・・女性は、甘い物がお好きだと聞きましたので・・・。」
「一体、誰が女は甘い物が好きだと決め付けたんですか?さぁ、言ってください。答えなさい。
・・・・・あぁ、もしかして、貴方が付き合った女は、全員甘い物が好きだったとでも?」
冗談じゃない。
何が悲しくて、この男が付き合った女達と同列と認識されなければならないのか。
私は、違う。
私は、絶対に違う。
同じじゃない。違う人間だ。
なのに、この男は同等に扱おうとしているのだろうか。
「腹が立ちました。今日はもう帰ります。全く・・・・やはり貴方はムカつきますね。六道骸。」
「ムカつく・・・・・ですか。ですが、帰らないで下さい。帰るなら、僕が送ります。」
「・・・・・・・だから、突き放さずに優しくしろと?」
私は、そんなに甘い人間じゃない。
簡単に、赦せるような相手じゃない。
この、六道骸という存在を。
今、目の前で赦しを乞う男を。
貴方は、委員長に傷を負わせた。
貴方は、委員長を滅茶苦茶にし、閉じ込めた。
なんたる、行い。
恥を知れ。
悔い改めろ。
目の前で、懺悔しろ。
自分が、間違っていたと。
自分は、してはいけない行いをしてしまったんだと。
今度は、逆に痛め付けられ、床に這いつくばらせられればいい。
さぁ、泣け。
さぁ、喚け。
誰も助けに来ない。
誰も助けに来ない。
一生、暗闇の中で過ごせば良い。
そうすれば・・・・・私に平穏が訪れる。
今までみたいに、委員長と居られる。
私の願いを返せ。
私の希望を返せ。
私の切実な想いを返せ。
そんな事を思い、考えてみても。
どんなに行動を起こそうと、頑張ってみても・・・・・・。
「出来ない自分が、一番憎い・・・・・。」
馬鹿なんだ、私は。
きっと、この男に出会ってしまってから、何かが壊れ始めてしまったのだろう。
きっと、そうだ。
私が可笑しくなったのは、この男以外に原因が見当たらない。
見当たらないから、この男は、私にとって恐怖そのもの。
一体、私は何をされたのだろう。
六道骸は、私に何をしたのだろう。
総てが謎のようで、逆に私は、答えを知っているのかも知れないとも感じる。
でも、これには気付きたくない。
気付きたくないから、蓋をしてしまえ。
そうすれば、一生何も分からないまま過ごすことが出来る。
ずっと・・・・・・ずっと、気付かなくて済むのだから。
「・・・・・・ケーキに免じて、許してあげますよ。紅茶もありますよね?なければ、私は即帰りますからね。」
「あ、あります。紅茶でしたら、とても美味しいものがあります。待っててくださいね?帰らないで下さいね?。」
「帰りませんよ・・・・貴方、分かっているでしょう?私は、約束は守ります。まぁ、これが約束だとは断言できませんけど。」
“絶対に、待っていてください”
六道骸は、再度念を押して何処かへ向かった。
なんという変化なのだろう。
私が、帰らないと言っただけで、あんなに嬉しそうな表情をするなんて。
あれじゃあ、初めて会ったときの六道骸じゃなく、ただの十五歳の少年の顔じゃない。
・・・・・・・・・・また、あの男の違った一面を見てしまったわ。
なんたる不覚・・・・・・。