悲しそうだった、彼女。
ねぇ、君は誰?
知らない、あの娘
空は、晴れていた。綺麗だった。
なのに、あそこにいる彼女の表情は、暗かった。
まるで、正反対。真っ暗。そこだけ、暗闇。
そんな感じが見て取れた。
一体、何があったのだろうか。
俺は、気になった。
それに、彼女自身にも、興味があった。何と無く。
けれど、俺は、彼女を見つめているだけ。
話し掛ける事は出来なかった。
なんて、勇気がないのだろうか。
こんな俺、余り好きじゃない。
そう思った、あの日・・・・・。
「気になる女性がいる?」
「そうじゃ、何度も言わせるな。
気になって気になって、仕方ない女がおるけぇ。」
翌日、俺は柳生に相談を持ち掛けた。
まぁ、柳生ならば、秘密厳守をしてくれると考えたから。
「名前は?」
「知らん。」
「では、学年は?」
「それも、知らん。」
「で・・では・・・学校は??」
「そんなもん、立海に決まっとる。何、聞いてるんじゃ?」
そう。学校は、同じ。
それは、分かる。
何故なら、彼女を見かけたのは、屋上だったから。
当然、校内に入れるのは、限られている。
その上、制服が、立海の制服だったのだから、決定的。
けれど、それ以外の情報は、ない。
だから、困っているという始末。
彼女は、一体どこにいるのだろうか。
ねぇ、君の名前は?
君の、恋人は?
君の、好きな人は??
知りたい。沢山。
彼女の事を、色々と知りたいと感じる。
これは、恋と言えるかどうか分からない。
だって、俺と彼女は、何も始まっていないから。
「困りましたね。分かっているのは、彼女は、この学校の生徒という事だけ。
他は、全く知らないという始末。これでは、何の対処も出来ませんよ?」
「じゃから、手伝えって言ってるんじゃろうが。」
「命令系ですか・・・・仁王君。頼み方というものがあると思うのですが。」
「手伝え。」
絶対に、見つけだす。
気になったんだから。俺一人の力では、限度がある。
だから、柳生にも、協力してもらう。
他の奴は・・・・まぁ、後々考えれば良い事。
役に立ちそうな奴は、使わなければ意味がないからのぅ。
今は、彼女を捜す事。それが、第一。
テニスをサボろうと、真田に怒られようと、構わない。
そんくらい、覚悟は出来ているから。
「・・・・・・・・で、一年から、探していくと?」
「それしかないじゃろうが。
それとも、あれか?放送室で、呼び掛けるか??
それか、ずっと、屋上に来るのを永遠に待っていろと?柳生は、俺に捜すなって言うんか?」
「べ、別に。捜すななんて言っていませんよ。」
柳生は、慌てて否定した。ったく、何て奴じゃ。
捜すななんて、言った日には、明日の朝日は拝めないと思ってもらわんとな。
すると、柳生がこんな事を言い出した。
「写真とか、ありますか?」
写真。写真??あの娘の、写真?
「・・・・・・・・・・ない。」
ない。写真なんて。
会ったのは、屋上。
それに、唐突な、出会い。
予想だとか、予測だとか、未来を予知できる訳じゃない。
俺は、神じゃないし、超能力を持っているとかでもない。
ただの、人間。
「持っていないんですか?困りましたね。
じゃあ、本当に端から聞いていくしかないんですか。」
柳生は、わざとらしく溜め息をついた。
こいつ、人事だと思いおって。
紳士なら、寛大な心で、快く引き受けんしゃい。
全く、心が狭すぎじゃ。
「文句垂れてないで、さっさと捜せ。紳士。」
俺は、それだけ言うと、歩き出す。
こんな場所で止まっている訳にはいかん。
こうしている間にも、時間は過ぎていっている。
彼女を捜せるのは、学校にいられる、この時間だけ。
この限られた時間で、俺は、捜し出してみせる。
