「長太郎。」
聞き慣れた声。
もしかして・・・・と、振り向いたら、やっぱりあの人だった。
〜勇気〜
俺の、背後に居た人物・・・・それは、先輩。
テニス部のマネージャーで、とっても、働き者。
その姿に、俺はいつも感心してばかり。
実は・・・・先輩は、俺の好きな人。
好きで、好きで、大好きでたまらない人。
いつから、好きになったかは・・・・まぁ、恥ずかしいので言わない。
「どうしたんですか?先輩。」
俺は、先輩を名前で呼べない。
何度も、呼ぼうと思ったけれど、勇気が出なかった。
平気で、呼べている先輩達が羨ましい。
「〜!!!!」
岳人先輩が、先輩に後ろから、抱き付いてきた。
この人は、どうしてそんな事が平気で出来るんだろう。
不思議でたまらない。
俺だったら、何も出来ませんよ。
時々、そんな自分に腹が立つ時がある。
次の日こそは・・・・と、思いながら、結局何も出来ないのだ。
”お前、を誰かに盗られても後悔すんなよ?”
いつだったか、宍戸さんに忠告された。
そんな事は、自分でも痛い程分かって居るんだ。
だけど、勇気が出ない。
「岳人、ちょっと御免ね?長太郎と話をしたいんだ。」
俺が、考え事をしていると、先輩は、岳人先輩に”御免”と謝っていた。
「そか・・・・分かった。じゃ、また後でな。長太郎も!!!」
そう言うと、岳人先輩は、元気よく手を振りながら、走り去っていった。
・・・・・・・・岳人先輩。元気すぎです。
その元気と、行動力を俺に分けて下さいよ。
「さて・・・・と。長太郎。ちょっと良いかな?」
「あ、はい・・・・。何でしょうか?」
俺に話し?
一体何なんだろう。
あ、もしかして買い出しに付いてきてという事なんだろうか。
まさか、先輩に限って、俺に告白なんて事はないだろうし。
「宍戸に、告白されたの。」
耳を疑った。
宍戸・・・・さん?
そんな・・・・告白って・・・・・・。
「付き合おうかなって、思うんだけど。長太郎は・・・・どう思う?」
どうって・・・・どうって言われても・・・。
俺は、どう答えたらいい?
胸が痛い。
呼吸が、何だかしにくい。
呼吸って、こんなに大変だったっけ?
脈が、段々と速くなっているのが分かる。
「長太郎?」
先輩が、心配そうに俺を見つめる。
何か言わなければ______。
そうだ、”おめでとう”って・・・・。
”宍戸さんは、とてもいい人ですから”って・・・・。
”お幸せに”って・・・・。
「い、良いと・・・・思いますよ?宍戸さんは・・・良い人・・ですから・・。」
あの時、ちゃんと笑えただろうか。
声は、震えていなかったか?
「はぁ・・・。こんな事って、ないよな。」
俺は、あの後どうやって帰ってきたのか、全く覚えていない。
これから、どうしよう。
毎日、あの二人が仲良くしているのを見るのは辛い。
いつかは・・・平気になるんだろうけど、今は、駄目だ。
見たくない・・・・。見たくないんだ。
「畜生・・・・・・!!!!!」
俺は、泣いた。
男が泣くなんて、みっともないって言う人もいるだろうけれど。
この日は、どうしても我慢できる訳がなかった。