この想いは、
平常心。
それは、剣道には欠かせないもの。
勿論、他の武道でも、欠かせないだろう。
だから俺は、普段から失わない様に心掛けている。
しかし時には、その平常心を失ってしまう事も度々ある。
俺も、人間だから・・・・・。
「崇さん。」
剣道場。
今、この場所には誰もいない筈・・・・・だった。
しかし、俺の目の前には“平常心”を崩してしまう人物がいる。
彼女の名前は、。
同級生であり、剣道部員。
そして・・・・・俺の好きな相手。
自分の気持ちは、伝えていない。
今はまだ、その時期ではないと思ったから。
そう思い続けて、一年。
一年というのは、とても早く。
そんな中で、彼女に恋人も婚約者もいない事が、奇跡だと思う。
「今日も、ホスト部の方だったんですね。」
「あぁ。」
今日も、一人で練習をしていたのだろうか。
は、とても熱心だ。
それは、試合が近くなるとさらに熱中してしまう癖がある。
華奢な身体とは反対に、内にはとても強い精神が宿っている。
集中している時の、真剣な瞳。
あの瞳には、人を引き付ける力があるのだろうか。
俺は、の瞳を目にしたあの日、恋をした。
一人、剣道場に残り練習をする彼女。
俺がいる事にも、全く気付く気配がなかった。
「今日は、倒れなかったみたいだな。」
「・・・・・・・それを、言わないで下さい。」
以前、彼女は倒れてしまった。
原因は、過度の練習。
あの時の俺は、冷静さは全くなかった。
ただただ、が無事かどうかが心配で。
彼女を抱き上げ、保健室へと走った。
「余り・・・・無茶はするものじゃない。」
「崇さん。私は、練習に練習を重ねなければ、駄目なんです。
分かりますか?私には、努力しかない・・・・・。何度倒れようとも、構いません。」
「・・・・・。」
強い瞳。
意志を宿した、美しい瞳。
俺が、恋に落ちた時に見た・・・・・あの瞳だ。
その中に、俺が映し出されているのだろうか・・・・・・・・・・。
「だから、私は・・・・・っ・・・??!!!!!」
この想いは、溢れ出てしまった。
俺は、我慢をし過ぎてしまったのかも知れない。
もう、止めたくはなかった。
「た、崇さん・・・・?」
「どうやら、我慢の限界の様だ・・・・。嫌なら、突き飛ばしてくれて構わない。だが・・・・・。」
“俺の事を好きなら、このままで・・・・・・・。”
「それは、卑怯です。」
俺から離れたは、笑っていた。
「崇さん。“卑怯”な手を使うのは、良くないと思います。」
「卑怯・・・・・。」
一体、何が卑怯なのだろうか。
何処か、可笑しい箇所があったか?
思い起こしてみても、全く見当がつかない。
「今のは、自分の気持ちは何も言わずに、相手任せだったでしょう?」
「・・・・・・それが、卑怯・・・・。」
そうか。
確かに、俺は言っていない。
が、好きだと。
ずっとずっと、愛して止まなかったと・・・・・・。
「済まない。」
俺は、彼女に謝った。
とても、恥じた。
これは、やってはやらない事だから。
「改めて、言わせてもらう。・・・・・俺は、お前が好きだ。だから・・・・だから・・・・。」
俺の気持ちを、受け止めて欲しい_____。
緊張した。
物凄く、緊張してしまった。
上手く言葉が出たのかさえ、覚えていない。
「崇さんが、取り乱した所・・・・初めて見ました・・・。」
「俺は、がいる時はいつも取り乱していたんだが・・・・気付かれない様に、していただけだ。」
「そうなんですか?やっぱり、崇さんには敵いませんね・・・・。」
そう言った直後の事だった。
が、俺に抱き付いてきた。
これは・・・・・夢か・・・・?
「私も・・・・・好きです・・・・。」
彼女は、言った。
初めて会った時から、好きだったと。
俺に、近付きたくて必死だったと。
どうやら俺達は、相思相愛だった・・・・・らしい。
「これからは、恋人になれるんですね。」
「あぁ・・・・・。」
の、頬に触れる。
彼女の漆黒の髪を、耳に掛ける。
「愛している・・・・。」
もう、止める必要は何処にも無い。
勿論、俺を引き止めていい人間だって、いない。
「・・・・・。」
彼女の唇と、自分の唇を重ねる。
“時が来たら、結婚しよう___。”
その誓いを、胸に秘めて・・・・・。
追記。