“どう想っとるん?”
真実
忍足先輩に、よく聞かれる。
私が、跡部先輩をどう想っているのか。
どうして、あの人が聞いてくるのかが分からない。
私が、どう想っているのか・・・・・それは、私だけが知っていれば良い事。
今の所は。
だから、私は微笑むだけで、何も答えない。
必要の無い事に、無駄な時間は割きたくない。
(どうして・・・・・あの人を、私に紹介したのかが分からない。)
跡部先輩は、女好きだと噂されている。
けれど、実際は違う気がしてならない。
誰にでも、闇はあるけれど・・・・一層強い闇があるみたい。
会う度に、同じ事を感じてしまう。
「テニスの練習試合?」
「あぁ。今度青学の奴等とやる事になった。」
「青学・・・・。」
テニスの事は、よく分からない。
だから、高校の名前は知っていても、その学校がどの位強いのか・・・・。
“あそこには、手塚がいる。それに・・・・越前もな。”
そう言った時の跡部先輩は、とても楽しそうだった。
きっと、先輩にとってライバルと言える人達なのだろう。
“ライバル”
私には、いるのだろうか。
何かを、競える人が。
考えてみても、そんな人は、思い浮かんでこなかった。
「、見に来いよ。練習試合。」
「私、テニスの事・・・・よく知りませんよ?」
「良いから。」
余りの強引さに、苦笑してしまう。
跡部先輩は、時に強引な所が見られる。
けれど、悪い気分ではないから、先輩の長所かもしれないと思ってしまう。
「約束だぞ。絶対だからな?」
「分かりました。そこまで言うのでしたら、見ましょう。」
見れば少しでも、テニスの事が分かるかもしれない。
私はそう考えた末に、見学する事を約束した。
「お前さ・・・・・好きな奴いんの?」
跡部先輩が、私の髪に触れてくる。
その指先は、冷たかった。
「なぁ、俺・・・・知りたいんだ。」
先輩の蒼く綺麗な瞳が、私の顔を覗き込む。
その瞬間“あぁ、皆は、この瞳に惹かれるのだろうか”と思ってしまう。
彼の瞳が、私に“知りたい”と訴えてくる。
けれど、私は答えない。
ただ、先輩に笑顔を見せるだけ。
