「お前。俺の女になれよ。」
・・・・・・・・・・冗談じゃない。
永遠に______。
ふざけるのも、好い加減にして欲しいと思った。
何故、私がこの男の女にならなければいけないのか。
なる理由もなければ、必要もない。
「なる気はないか?」
何故、そんなに真剣な瞳をして私を見るのか。
訳が分からない。
病院に行った方が良いのは、この男の方なのではないのだろうか。
「ありませんね。」
当然だ。こんな男に捕まったら、良い事は何一つ無いだろう。
寧ろ、最悪な事ばかりが起こるのではないのだろうか?
「そうか・・・・・。」
彼____跡部景吾____は、直ぐに諦めてくれるだろうと思った。
「俺は、諦めないからな。」
・・・・・どうやら、諦めが悪いようで。
私が何度断ろうとも、挫けはしなかった。
その日は、もういい加減聞き飽きたので、逃げるようにその場から去ったものの
そうそう甘いものじゃなかった。
次の日から、彼は私の自宅、学校、登下校、様々な場所にやって来ては
私に”俺の女になれ”と必死に頼み続けてきた。
終いには、私を力ずくで氷帝学園に転入させる始末。
本当に、何なのだろうか?
後で問いただしてみたら、
「俺様の近くで、嬉しいだろう?寧ろ感謝して欲しいモンだな。」
・・・・・・・・・・偉そうに。
本当に本気で、以前より数万倍の威力でこの人を殴りたいと思った。
御祖父様は御祖父様で、
”跡部家の御子息となかよくするんだぞ”と命令形で私に言い放った。
なんたる仕打ち。こんな屈辱欲しくもない。
こんな事ならば、あの日、氷帝学園に行かなければ良かった。
行ったのが、運の尽きだったのだ。
既に、私には拒否権なんてモノは用意されてなくて。
いつの間にやら、彼の恋人になっていた。
毎日のように、ファンクラブだかなんだか知らない連中に囲まれたりもした。
あれから、一年。
長いような短かったような・・・・・。
何となく、私も跡部景吾がどんな男か分かってきて。
意外に子供っぽいところとか、単純。
照れくさそうに、手を繋いだり。
優しくて、私が無茶をした時は、少し厳しい口調で私を叱る。
人は見かけによらないモノ。
彼の近くにいるだけで、様々な表情や、感情が見られて、私の中でも何かが変わっていった。
けれど、私は彼に一度も言っていない。
そう、景吾が一番欲しいであろう言葉を・・・・・。
言わなくても、構わないだろう。
そう思っていた。
こらからも、言うつもりは全くなかった。
彼は、一日に一回以上は必ず私に囁いていたあの言葉を。
耳元で、私だけに聞こえるように囁いてくれた。
でも、私はどうしてもその言葉だけは言いたくなかった・・・・・・・・。