は、目覚めなかった。
永遠に_____。
事故のあった当日から、一ヶ月以上が経った。
しかし、は、全く目覚めない。
ずっと、ずっと昏睡状態。
まるで、百年眠り続けてしまう、眠り姫の様だ。
呼び掛けても、反応はない。
俺を、映すのを拒んでいるかの様に、閉じられたままの瞼。
俺の名前を、紡ぎ出してくれない、唇。
俺の肌に、触れようとしない・・・の細く、綺麗な指。
どれも、動かない。
ただ、呼吸だけは、している。それだけ。
なぁ、どうして眠ったままなんだ?
目覚めるのを、拒んでいる理由でもあるのだろうか。
「・・・・・・俺が、原因か?」
そう尋ねても、は、返事をしない。
もし、俺が原因ならば、の目の前から、姿を消すべきか?
否、そんな事をしても意味がない。
確かに、俺は・・・に対して、自分勝手な事ばかりやってきた気がする。
だが、それが本心なんだ。
隠していたって仕方ないだろう?それとも、この考え方がよくないというのだろうか。
なぁ、。
お前は、俺にどうして欲しい?
今すぐにでも、いなくなって欲しいか?
それとも、側にいて欲しいか?
なぁ、どっちだよ。答えてくれよ。俺は、どうしたらいいのか分からない。
ただただ、見舞に来て、少しの間、側にいて話し掛けることしか出来ない。
これが、現実。俺は、変わってやれない。
今の状況から、抜け出したいと思わない限り、お前は、目が覚めないのだろう。
「誰だ。病室にいるのは。」
突然、誰かが病室に入って来た。
俺は、毎日の様に来ているのに、今まで会った事が無かった人物。
・・・・・・・誰だ?
年齢からすると、四十代前半か?
冷たい瞳。初めて出会った頃の、の瞳と似ている。
誰も、信用しない。必要ともしない、瞳。
「君は、誰だ?」
男は、俺の存在に気付き、話し掛けて来た。
緊張する。
ただ、見られただけなのに。この、恐怖心は、何だ?
本能的に、”ヤバイ”と感じたのだろうか。
俺は、この場所から、逃げてしまいたい感情に、襲われた。
だが、逃げる事は許されない。
それに、例え、逃げたくても、そんな事をしたくなかった。
「跡部景吾と言います。彼女の・・・・の、恋人です。」
「の?ほぅ・・・・跡部財閥の御子息か。君が、をねぇ。」
嫌な笑い方。気持ちが悪い。
人を、見下したような・・・・。コイツは、最低な野郎だな。
しかし、の親だとしたら、そんな態度を取るわけにはいかない。
今後の事もある。友好的にしておかなければ。
「フン。にも、見舞に来てくれる人間がいるとはな。
初めて知ったよ。どうやって、この子を手なずけたんだ?
是非、お聞きしたいものだな。跡部財閥の御子息さん。」
手なずけた・・・・だと?
何を言いやがる。俺は、そんな事をした覚えはない。ましてや、したいとも思わない。
本当に、父親かよ。吐き気がしてくる。
「跡部財閥か・・・・にしては、まぁまぁだな。
たまには、使い物になるじゃないか。役立たずにならなくて済んだな。
否、このまま目が覚めなければ、役立たずで人生が終わるか。ハハハハッ!!!!!」
「な・・に・・・・言ってるんですか。が、役立たず・・?」
殴ってやりたい。今すぐにでも。が、役立たずだと?馬鹿言うな。
コイツは、役立たずなんかじゃない。俺にとって・・・・大事な存在だ。
そんなを、役立たずなんて、言ってほしくない。
「何だ?知らなかったのか。この女は、戸籍上では、私の娘だが、実際は、俺の弟と、俺の妹のの娘だ。」
な・・・・に・・・・・?
この男、何言ってるんだ?冗談だろ??
「は、純血の純血の純血。家の血だけが通っている、女。
だが、汚れてる。なんたって、兄妹の間に出来た子供なんだからな。」
俺は、何も言えなかった。
病室には、男の笑い声が響いているだけだった。