「よぉ。」
知らないから、
昨日は、上手く逃げられた。
まさか、あんな事になるとは思わなかった。
俺の、想定外だ。
・・・・立海のテニス部である、柳生の女。
今、俺が恋人にしてやっている女の友人。
その女は、今はいない。
煩い女は、委員会へ向かった。
だから、に気軽に話し掛けることが出来る。
いとも、簡単に。
「一体、私に何の用かしらね。」
「あーん?用がなかったら、話し掛けちゃいけないのかよ。」
「その通りよ。」
・・・・・・即答かよ。
この女、俺といられて嬉しくないのか?
普通、此処は喜ぶべきだろ。
この俺と、一緒に居られる事に感謝してほしいもんだな。
「用がないなら、向こうに行って欲しいわね。邪魔よ。」
「へぇ・・・・随分と、冷たいじゃねぇか。柳生にも、そんな態度取ってんのか?」
「・・・・・・・・・・。」
は、答えない。
俺の挑発に、乗ってこない。
(面白くねぇ・・・・・だが・・・・。)
興味は、ある。
に。
俺の言葉の一つ一つに、どんな反応を示すのか。
見てみたい。
知りたい。
「お前さ・・・・・どうして、柳生と付き合ってんだよ。」
「言う必要は、無いわ。」
頑固な女だ・・・・・。
俺の方には、視線を向けない。
見ているのは、手に持っている本。
俺は、興味があるのに・・・・・コイツは、俺に興味を示さない。
「柳生の何処が良いんだよ。」
「煩い人ね。その口、糸で縫ってあげましょうか。」
「あんたの、その綺麗な唇で塞がれるなら大歓迎だがな。」
「・・・・・馬鹿な事を・・・。」
この時、やっと俺の方に視線を向けてくれた。
俺を見る瞳は、優しさなんか何処にもない。
冷たく、本当に感情があるのかどうかも怪しく感じる、瞳。
違う・・・・・。
俺は、こんなの欲しくない。
「・・・・・・・冗談だ。」
「冗談でも、言うのは止めなさい。それから・・・・・。」
“あの子を悲しませたら・・・・・私は、許さない。”
「やり方を、間違えたか・・・・・。」
屋上。
俺は、独りで壁に寄り掛かっている。
あんなに、冷たくされるとは思わなかった。
まだ、お互いの事を深く知っている訳でもないのに。
浅い。
実に、浅過ぎて・・・・溺れる事なんか不可能だ。
「仕方ねぇじゃねえか・・・・・。」
空を、見上げた。
俺は、彼女の姿を思い浮かべた。
まだ、俺に向けられていない優しい笑顔を。
「知りてぇんだよ・・・・・・・・・。」
俺は、お前が知りたい。
知らないままじゃ、前には進めないから。

