それは、不思議な不思議な出会い。
全ては、これから始まったんじゃないかと感じている。
春
「ねぇ、侑士。私、あのバッグが欲しいよ。」
「はいはい・・・・。」
何やの、ほんま。
この女、さっきから馴れ馴れしい。
化粧したって、綺麗やないし。
隣にいるだけで、気分が悪くなるわ。
頭の中は、空っぽ。何も入っていない様な、品の無い笑い。
一緒に居ても、仕方が無い女。
やっぱり、放っておけば良かった。
”暇だったから、付き合ってやろう”その程度やったんに。
はよ帰りたいわ。苛々すんねん。どっかで、撒くか・・・・。
そう考えた俺は、次の店の辺りで、この女を撒く事に決めた。
「済まん。電波悪いから・・・外で掛けてくるわ。そこで待っとって。」
「うん、分かった。此処で見てるから、早く来てよ?」
「あぁ、堪忍な・・・。」
馬鹿が_____。
俺は、心の中で、笑いながら外へと出ていく。
「さて、帰りますか。此処にいたって仕方ない。」
俺は、人込みの中に紛れ込んでいく。
この街は、何も無い。
ただ、人工の光が輝いているだけ。
この中に、何か感動する様なものがあるんやろか。
俺には、見つからない。見つかりそうも無い。
昔は、違った。
色々な事に感動し、興味を持ち、純粋な感じで素直に喜んでいた自分がいた気がするんに。
俺は、意味もなく空を見上げる。
やはり、何も感じない。
俺の心は、腐ってしまったに違いない。
こんなに、駄目になってしまうもんなのやろか・・・・。
その時やった。
空気が、変わった気がした。
一瞬にして。
何や?これは。
周りは、何も変化が無い。
人が、忙しそうにただ歩いているだけ。
俺の気のせいか・・・・・。
俺は、気を取り直して、歩き出す。
だが、依然として、空気は変わったまま。
他の人間は、変化に気付いていないのか。
俺だけが、可笑しいとでも言うのか。
(訳分からん。一体、何が起こっておるんやろ。)
ふと、視線を前から逸らすと、一人の女が目に入った。
背は、女の平均な高さ。
髪は、長いと言える程伸びてはいない。
少し・・・・紫掛かっている。染めているんやろか。
せやけど、不自然やない。あれは、自然の色か?
金色の、大きな瞳は、俺を真っ直ぐに捕らえていた。
俺は、歩みを止める。
すると、女は俺に近付いてくる。
近くで見ると、益々その美しさがよく分かる。
「俺に・・・・何か?」
何とか平静を装い、笑顔で女に尋ねた。
「済みません。妹を見ませんでしたか?
私の双子の妹なんですが、顔は・・・・そうね。
私と同じ。髪は、長くて・・・蒼いの。知らないですか?」
「さぁ、知らんで。自分みたいに、べっぴんさんなら、覚えている筈やし。」
これは、本音。この女は、本当に美しい。
その双子の妹ならば、同じ位美しいやろ。
それを、忘れる様な奴は、そうそういない筈。俺かて、同じや。
「そうか。知らないのか・・・可笑しいな。
分かりました、どうも済みませんでした。じゃあ、私は失礼します。」
女は、そういうと去ろうとする。せやけど、そんな事はさせない。
「ちょお待ってや。自分、名前は?それに、何で俺に尋ねたん?」
「何故?何故って、そう感じたから。
私の勘は、外れたみたいね。貴方の友達が会ったんでしょう。
それを、貴方と会ったんじゃないかって、錯覚したみたい。」
苦笑を浮かべる。
前に、会った?俺以外の誰かが、この女の妹に。
そんな話、聞いたことがない。一体、誰なんやろ。
いや、そんな事はいい。
それよりも、名前や。
俺は、女の名前が知りたかった。どんな事をしても。
「あぁ、名前だったよね。私の名前は、。」
。
綺麗な名前。俺は、忘れない。
また、会えると感じていたから。
俺が、ふと我に返ると、は、目の前から消えていた。
まるで、幻だったかの様に・・・・・・。