それは、不思議な不思議な出会い。
全ては、これから始まったんじゃないかと感じている。
春
春。
俺が、彼女に出会ったのは、病院に行った帰りだった。
あの時は、散り行く桜に見とれていた。
だから、目の前にいる彼女には、気付かなかった。
「いたっ……!!!」
「え?あ・・・済みません。大丈夫ですか?」
我に返り、直ぐさま謝った俺の前にいたのは、とても綺麗な女の子だった。
なんて、綺麗なんだろうか。
俺は、そう感じた。
だが、見とれる場合じゃない。
彼女を助けないと。
俺は、彼女に手を差し出した。
すると“有り難う”と言って、彼女は、俺の手を握る。
冷たい______。
優しく、温かな笑顔とは違い、手は、凄く冷たかった。
外は、そんなに寒くないのに。
寧ろ、陽射しが眩しくて、暖かいのに。
まるで、死人みたいに冷たかったんだ。
そう感じた瞬間、ゾッとした。
「有り難うございました。」
彼女は、温かな笑顔を浮かべ、俺に御礼を言ってきた。
「いや、悪いのは俺だから。御免、気付かなくて。桜に見とれていたからさ。」
「桜?あぁ・・・・もう散ってしまう運命なのね。残念・・・。」
そんな風に呟きながら、桜を見つめる彼女は、凄く儚くて、思わず抱き締めてしまいそうになる。
どうして、そんな表情をするのだろうか。
確かに、桜は散ってしまう。
けれど、来年もまた・・・・って思えば・・・。
「そんなに簡単じゃないの。」
彼女が、言った。
真っ直ぐに、金色の瞳で俺を捕らえながら。
俺以外には、視線を向けない。
向けようともしなかった。
だから、俺も、視線を逸らす事は出来なかった。
そんな事は、してはいけないと思ったから。
「簡単じゃないって・・・・どういう意味なんだい?」
「言えないわ。言っても、何もならない。何にも無い。空っぽの宝箱みたいに。
期待して、結局は、何も無かったという感じよ。ねぇ、何も分からないの。
無理なの。もしかしたら・・・・・は、嫌。私には・・・・・私達には、“絶対”とか“確実”とか、そういう確信が欲しいだけなの。」
彼女は、それ以降は何も話さなかった。
俺と、別れるまで、一言も・・・・・。