悲しそうだった、彼女。
ねぇ、君は誰?
知らない、あの娘
「お邪魔。」
保健室に辿り着いた俺は、一度だけ深呼吸して、中に入った。
中に入ると、保険医はいなかった。
静まり返り、自分の歩く足音だけが部屋に響く。
(本当に・・・・中にいるんじゃろか・・・。)
段々、不安になってくる。
嘘だったのだろうか、彼女の言葉は。
信じてはいけなかったのか?
「あれ、仁王じゃない。珍しいね、あんたが此処にくるなんて。あ、もしかして・・・・サボり?それとも、女を連れ込む気?」
「いや、そんな事する訳なか。」
俺は、戻って来た保険医の発言に苦笑してしまう。
まぁ・・・・確かに、以前連れ込んでこっぴどく怒られたが。
「先生。って子は、おらんかの?」
「?あぁ、あの子なら今は図書館よ。この時間は、図書館に行くと決まっているからね。」
「図書館ね。」
俺は、礼を言ってから部屋を出る。
保険医の言い方からすると、どうやら時間によってどの場所にいるかが決まっているらしい。
この時間は、図書館。
彼女は、教室に行く事はしないのだろうか。
どうして、保健室なんかにいるのだろうか。
(変な子じゃな。)
図書館で、どんな本を読むのだろう。
俺は、殆ど図書館には行かない。
行ったとしても、時々試験勉強の為に使う位だ。
今度、何が良いのか聞いてみよう。
そうすれば、また話せる事が増えるかもしれない。
そうすれば、楽しみが増える。
「あぁ、いたいた。」
「・・・・・・良く分かりましたね。」
本を読んでいる彼女は、眼鏡を掛けていた。
目が悪いのか、それとも伊達なのか。
眼鏡は似合っているが、俺は掛けていない彼女の方が好きかもしれない。
「まさか、本当に会いに来るとは・・・・・。」
「何じゃ?もしかして、からかっていると思ったか?」
「その通りです。」
「俺、あんたと話がしたいんじゃよ。」
彼女の目の前に座り、読んでいる本を取り上げる。
話をしている時に、俺の方を見ないなんて嫌だ。
取り上げた俺を、彼女は不服そうに見つめる。
俺は、気にせずに笑顔を彼女に向ける。
「本は、好き?」
「そうですね。どちらかと言えば、好きです。色々な情報を与えてくれる時もありますから。」
「そうか。俺は、テニスをする方が好きじゃ。身体を動かすのは。良い事だしの。」
「・・・・・テニス?あぁ、テニス部の人なんですか。」
あれ・・・・・テニス部って有名なんだけれど。
俺、レギュラーだし・・・知らないなんて驚きだな。
「テニス・・・・テニスが好きなんですか。」
彼女は、笑っていた。
自然とではなく、人形の様に造った笑顔を浮かべていた。
「何で・・・・そんな顔をするんじゃ。」
「貴方には、分からない。」
そういうと、彼女は天井を見上げた。
“それ以降、何も話さない”という意思表示にも思えた。