私に触れないで
頭が真っ白になった。
あぁ、これが真っ白になるって事なんだ。
今は、何も聞こえないよ。
人の声も、水の音も、誰かが歩く足音も・・・・・何もかもが、聞こえない。
僕にとって、光は大切だ。
僕にとって、は大切だ。
二人共、大事で。
どちらかを切り捨てるなんて、不可能だ。
光の事は、何でも分かる筈だった。
分かっていると、思っていた。
でもそれは、僕の思い違いだった。
光の本心を、気付く事が出来なかったのだから。
光が、に向けている感情に・・・・気付かなかった・・・。
(どうしたら・・・・どうしたら、良いの?)
僕は、どうすればいい。
光と、対立するのか。
を、手放すのか。
選択できるのは、一つだけ。
二つを選ぶのは、不可能なんだ。
光は、僕と対立する事を選んだ。
僕は・・・・僕は・・・どっちも選べないよ。
「光、おはよう・・・・・。」
「おはよ。馨も早く食べたら?遅刻するんじゃない?」
「あ・・・・・うん・・・。」
昨日から、一夜。
僕たちの関係は、粉々になってしまった。
あれだけ、楽しかったのに。
あんなに、幸せな時間だったのに。
それが、一瞬にしてなくなってしまった。
なんて、哀しい出来事なんだろう。
「馨。僕は、あの言葉を撤回しないよ。」
アノコトバ。
それを聞いた瞬間、昨日の出来事が甦る。
が・・・好きなんだ。
僕は、馨から・・・・を奪うよ。
「じゃあ、先に行くから。馨は、女の子と約束してるんでしょ?」
「えっ・・・・・ぁ・・・。」
「昨日、言っていたよ。馨様が、迎えにくる・・・・・・ってね。」
忘れていた。
否、そんな事どうでもよくなっていたんだ。
女の子を、迎えに行くなんて。
今の今まで、忘れ去っていたよ。
だって、本当にどうでも良かったんだから。
「じゃ、また学校の方でね。」
それを言って、光は立ち上がる。
それ以上は、何も言わずに。
僕に、背を向けて歩いていく。
その歩みには、何も迷いがないみたいだ。
じゃあ、僕は。
僕の、心は。
僕の、歩みは。
光みたいに、迷いがないのだろうか。
違う、違うよ。
僕は、迷っている。
迷いがないなんて、嘘だ。
今の僕には、迷いがありすぎる。
「こんなの・・・・・嫌だよ・・・。」
僕は、嫌だ。
帰りたい。
還って、くれたらいいのに。
「どうすれば・・・・・いい?」
他力本願。
僕には、どうにも出来ないから・・・・・。
